適応障害で休職中の女性が、窓際で温かい飲み物を飲みながらリラックスして外を眺めている様子

「明日から、会社を休んでください」

診察室でそう告げられたとき、ホッとしたのと同時に、強烈な罪悪感に襲われませんでしたか?

今まで必死に頑張ってきたあなたにとって、急に「休め」と言われても、どう過ごせばいいのか戸惑うのは当然のことです。布団に入っても「みんなに迷惑をかけている」「このまま社会復帰できないんじゃないか」と、ぐるぐると不安が頭を駆け巡ってしまうかもしれません。

でも、精神科医として最初にお伝えしたいことがあります。 今、あなたが「何もしない」でいること。それはサボりではなく、治療という立派な「仕事」です。

この記事では、今のあなたが「今日、何をすべきか(そして何をすべきでないか)」を、回復のステージに合わせて具体的にお話しします。焦る気持ちを少し横に置いて、深呼吸しながら読んでみてください。


適応障害の回復プロセスを示す3段階の図解

適応障害の回復は、右肩上がりに一直線に進むものではありません。三寒四温のように、良くなったり少し落ち込んだりを繰り返しながら回復していきます。

大切なのは、「今の自分の時期(ステージ)」に合った過ごし方をすることです。時期を間違えて無理に動くと、かえって回復が遅れてしまうことがあります。

1. 急性期(休職直後〜):徹底的に「何もしない」時期

休職に入って最初の数週間は、心身のエネルギーが枯渇している「ガス欠」の状態です。 スマホの充電が残り3%しかない状態を想像してください。この状態でアプリを起動しても、すぐに落ちてしまいますよね。今はひたすら充電ケーブルに繋いで、じっとしている必要があります。

  • この時期のミッション: 「眠ること」「食べること」以外は自分に免除する。
  • 具体的な過ごし方:
    • アラームをかけずに眠る: 1日10時間以上寝てしまっても、「寝すぎた」と自分を責めないでください。脳が修復を求めている証拠です。
    • お風呂はパスしてOK: 入浴は意外と体力を使います。しんどい時はボディシートで拭くだけでも十分です。
    • 情報の遮断: 会社からの連絡は、産業医や人事、あるいはご家族を介してもらい、直接のやり取りは極力避けてください。着信音だけで動悸がしてしまうことも多いため、スマホは機内モードやおやすみモードを活用しましょう。

2. 回復期(症状安定〜):少しずつ「好き」を取り戻す時期

一日中寝ていることに飽きてきたり、「今日は天気がいいな」と窓の外を見る余裕が出てきたりしたら、回復期のサインです。 この時期は、枯れてしまった「楽しむ感情」に水をやるようなイメージで過ごします。

  • この時期のミッション: 「〜すべき」ではなく「〜したい」で動く。
  • 具体的な過ごし方:
    • 午前中の15分散歩: 幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」を活性化させるため、午前中に日光を浴びましょう。コンビニに行くだけでも立派なリハビリです。
    • 「好き」のリハビリ: 読みたかった漫画を読む、撮り溜めたドラマを見るなど、受動的な趣味から始めましょう。
    • 「できたこと」に目を向ける: 「今日は散歩ができた」「ご飯が美味しかった」など、小さなプラスの変化を大切にしてください。

※注意点: 少し元気になると「今のうちに資格の勉強でも…」と考えがちですが、まだ早いです。「生産性のあること」は復職準備期まで取っておきましょう。

3. 復職準備期(復帰目処〜):社会復帰へのウォーミングアップ

日常生活が支障なく送れるようになり、主治医から「そろそろ復職を視野に入れましょう」と言われたら、このステージです。 ここからは、会社に行く生活リズムに戻すための「模擬トレーニング」を始めます。

  • この時期のミッション: 通勤と同じリズムで体を慣らす。
  • 具体的な過ごし方:
    • 図書館通勤: 毎朝決まった時間に起き、スーツを着て図書館に行き、数時間過ごして帰宅する。これを週3〜4回続けても疲れないかを確認します。
    • 振り返り作業: なぜ体調を崩したのか、再発を防ぐにはどうするか(誰に相談するか、業務量をどう調整してもらうか)を、主治医やカウンセラーと言語化していきます。

良かれと思ってやったことが、実は脳にダメージを与え、復職を遠ざけてしまうことがあります。以下の4つだけは避けてください。

1. 昼夜逆転とアルコール

「眠れないからお酒を飲む」のは、精神医療的には最も危険な行動の一つです。 アルコールで得られる睡眠は、脳を麻痺させているだけで、疲労回復に必要な深い睡眠(レム睡眠・ノンレム睡眠のリズム)が得られません。また、お酒が切れた後の不安感(リバウンド)が強くなり、うつ状態が悪化するリスクがあります。 眠れない時は、お酒ではなく主治医に相談して、適切なお薬に頼ってください。

2. 業務メールのチェック

「迷惑をかけていないか心配で…」と、隠れて社用メールをチェックしてしまう方がいます。 しかし、適応障害の原因となった職場の情報(トリガー)に触れると、脳は一瞬で緊張状態に戻り、せっかく積み上げた回復がリセットされてしまいます。 PCはクローゼットの奥にしまいましょう。あなたの代わりは会社がなんとかしてくれますが、あなたの代わりはいません。

3. 人生の大きな決断(退職・転職)

「もうこの会社には戻れないから、辞めてしまおう」 そう思う気持ちは痛いほど分かります。しかし、うつ状態の時は、物事を悲観的に捉える「認知の歪み」が生じています。 正常な判断ができない状態で人生を左右する決断をすると、後で必ず後悔します。「辞めるかどうかの判断」も先送りにしましょう。元気になれば、もっと冷静に選択肢が見えてきます。

4. SNSで「他人のキラキラ」を見る

弱っている時に、友人の楽しそうな投稿や、同僚の活躍を見ると、「自分だけが取り残されている」という絶望感に襲われます。 今はSNSアプリを削除するか、通知を切って、デジタルデトックスをするのが賢明です。


患者さんから最も多く、かつ恐る恐る聞かれるのがこの質問です。

Q. 会社を休んでいるのに、旅行や遊びに行っていいのでしょうか?

A. 「回復期」以降であれば、むしろ推奨されます。

もちろん、体調が悪い「急性期」に無理に行く必要はありません。しかし、体調が落ち着いてきた頃に、温泉に行ったり、映画を見に行ったりすることは、脳のエネルギーを回復させるために非常に有効です。

医学的にも、「楽しかった」「綺麗だった」という感情が戻ってくることは、回復の重要なバロメーターとされています。 もし、外出先で会社の人に見られるのが不安なら、少し遠出をするのも良いでしょう。「サボって遊んでいる」のではなく、「医師の指導のもと、リハビリをしている」と堂々と思ってください。


最後に、復職への不安についてお話しさせてください。 真面目なあなたは、「休職前と同じように、バリバリ働けるようにならなきゃ」と思っていませんか?

実は、適応障害の治療ゴールは「元通りに戻ること」ではありません。「環境と自分との折り合いをつけること」です。 100点満点で働こうとすると、またいつかガス欠になります。 「まあ、今日は60点でいいか」「辛くなったら早めに産業医に言おう」 そんな風に、自分を守るための「適度な手抜き」を覚えることこそが、今回の休職期間で得られる最大のスキルかもしれません。


休職期間は、あなたの人生における「長い夏休み」ではありませんが、走り続けるために絶対に必要な「ピットイン(整備)」の時間です。

焦りや罪悪感が出てきたら、「今は休むのが仕事」と、何度でも自分に言い聞かせてあげてください。 そして、今夜はスマホを少し早めに置いて、ゆっくりとお布団の感触を味わってみましょう。

あなたが本来持っている「治る力」は、休むことで必ず戻ってきます。


参照・出典元

本記事は、以下のガイドラインや医学的知見に基づき執筆されています。

  1. 厚生労働省
  2. 日本うつ病学会
    • うつ病治療ガイドライン
    • ※適応障害の休養期間の過ごし方は、うつ病の急性期・回復期の対応に準じて推奨されることが一般的です。
  3. American Psychiatric Association (APA)
    • Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5)

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【記事監修・文責】 宇治田直也(三宮駅前こころのクリニック 院長 精神保健指定医・日本医師会認定産業医)

【記事執筆】 近藤大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長 精神保健指定医)