日中眠たい男性

「明日までにこの企画書を仕上げないと…」

「最近、仕事の責任が重くなってきて、ベッドに入っても頭が冴えてしまう」

このような仕事のプレッシャーや人間関係のストレスで、夜なかなか眠れなかったり、夜中に何度も目が覚めてしまったりした経験はありませんか?

一時的な寝不足であれば、週末にゆっくり休めば回復するかもしれません。しかし、そんな「眠れない夜」が何日も続いているとしたら、それは単なる疲れや心配性ではなく、治療が必要な「不眠症」のサインかもしれません。

不眠症は、決して「心が弱いから」なるものではありません。この記事では、精神医学の文献に基づき、プレッシャーで眠れなくなる仕組みや、睡眠の質を下げる「NGな習慣」、そして今日から始められる科学的な不眠ケアについて、高校生の方でもわかるように噛み砕いて解説します。


「眠れないなら、睡眠薬をもらえばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。確かに、近年は安全性の高い睡眠薬が登場し、不眠治療は格段に進歩しています。

しかし、精神科外来での最新の治療方針において、安易に薬物療法だけを先行させるべきではないとされています。睡眠薬だけに頼る治療は、長期服用や多剤併用につながるリスクがあるからです。

そこで、早期の休養や再発防止のために不可欠とされているのが「睡眠衛生指導」です。これは簡単に言うと、「日々の生活習慣や寝室の環境を見直し、自分自身の『眠る力』を取り戻すためのトレーニング」のことです。薬物治療を行う場合でも、この睡眠衛生に関するリテラシーを向上させることが、治療の効果や安全性をさらに高めると考えられています。


仕事のプレッシャーがきっかけで不眠になったとしても、実は「良かれと思ってやっている習慣」が、不眠を長引かせていることがよくあります。以下の行動に心当たりはありませんか?

① お酒の力を借りて眠ろうとする(寝酒)

「お酒を飲むとすぐに寝付けるから」と寝酒を習慣にしていませんか? アルコールは短期的には入眠を改善させることもありますが、実は強い利尿作用があります。さらに、飲酒から2〜3時間経つと、逆に睡眠を浅くしてしまう作用があるため、結果的に夜中に何度も目が覚める中途覚醒の大きな原因になります。

また、飲酒は睡眠時無呼吸症候群の重症度を高めることにも注意が必要です。長期間毎日寝酒を続けていると体に耐性ができ、同じ量では眠れなくなって飲酒量が次第に増え、最悪の場合はアルコール依存を形成してしまう恐れもあります。

② 夕方以降のコーヒーやエナジードリンク(カフェイン)

カフェインは覚醒レベルを上げるだけでなく、利尿作用によって中途覚醒を増やすため、睡眠にとって大きな敵となります。 カフェインの半減期(体内の濃度が半分になるまでの時間)は、一般的に「約7時間」と言われています。そのため、夕方以降のカフェイン摂取は控えるべきです。夕方以降は、ノンカフェインの飲み物や麦茶などに切り替える工夫が必要です。

③ 寝る前のスマホと「真っ暗すぎる部屋」

夜の光刺激は、体を興奮させる「交感神経」を刺激し、眠りを誘うホルモンである「メラトニン」の分泌を減少させてしまいます。特に、青色や白色の光(ブルーライトなど)はわずかな明かりでも睡眠の質を低下させるため、夜間にテレビやパソコン、スマートフォンの画面を見続けることは避けるのが望ましいです。夜間は画面を「夜間モード(青色光を少なくしたもの)」に変更するなどの工夫をしましょう。

一方で、「眠る時は部屋を真っ暗にして、完全に無音にしなければ」と思い込んでいる方もいますが、これも要注意です。部屋が真っ暗な場合や静か過ぎる場合、かえって不安になって寝つきにくくなる人もいます。そうした場合は、暖色系のフットライト(10ルクス程度)を使用したり、刺激の少ない環境音を小さな音量でタイマー設定して流したりするのが効果的です。


悪循環から抜け出し、ぐっすり眠るためにはどうすればよいのでしょうか。科学的根拠に基づいた「正しい眠りのルール」をご紹介します。

① 理想の睡眠時間は「7時間」を目安に

成人に必要な睡眠時間については、疫学的に「健康リスクが最も低くなるのは7時間を中心とした6時間から8時間の間」とする報告が多く、これが一つの目安になります。 労働世代において、睡眠時間が6時間未満になると、高血圧や心筋梗塞などの健康リスクが有意に高くなることが多くの研究で示されています。少なくとも平日は6時間の睡眠時間を確保することを目指すべきです。

「8時間は絶対に寝ないといけない」という「8時間神話」にとらわれている方もいますが、長く布団に入っていれば休養がたくさんとれるわけではなく、かえって睡眠効率や睡眠の質を低下させることにつながるため、無理に長くベッドにいる必要はありません。

② 週末の「寝だめ」は逆効果?

平日の睡眠不足を、休日の「寝だめ」で一気に解消しようとしていませんか? 休日に平日より2〜3時間以上長く眠ってしまう場合、それは「平日の睡眠時間が不足している」サインです。最近の研究では、平日の睡眠不足を週末の2日間だけで解消するのは困難であることが分かっています。

さらに、土日に2日間連続で寝だめや朝寝坊をしてしまうと、体内時計が後ろにずれてしまい、月曜日の朝から「時差ボケ」のような状態で1週間を始めることになりかねません(これを社会的時差ボケと呼びます)。週末の寝だめに頼るのではなく、平日の睡眠時間を少しでも増やす工夫をし、日曜日にはできるだけ正常のリズムに近づくように起きることが重要です。

③ 昼寝は「30分以内」が鉄則

日中に眠気を感じた場合、長い昼寝をとってしまうと夜の睡眠を妨げてしまいます。昼寝は「30分以内」にとどめることが推奨されています。一方で、30分以内の短い昼寝は、注意力や気分の回復に有意義な好影響をもたらすことも示されています。

④ 「深部体温」をコントロールして眠気を誘う

睡眠は、体の内側の温度である「深部体温」と深く関わっています。深部体温は日中に上昇し、夜間に低下することで眠気が訪れます。この「温度が下がる落差」が大きいほど、寝つきや睡眠の質が良くなると考えられています。

そのため、夕方にウォーキングなどの有酸素運動(39〜40度程度の軽めに汗をかく運動)をしたり、ぬるめのお湯にゆっくり入浴したりして一度深部体温を上げておくと、その後の温度低下が急になり、眠りに入りやすくなります。 ただし、眠る直前に激しい運動や熱いお風呂に入ると、深部体温が上がったままになり、交感神経が刺激されてかえって眠れなくなってしまうため、避けるべきです。また、夏場は高温多湿で深部体温が下がりにくくなるため、クーラーなどを上手に使って室温を調整する必要があります。

⑤ 朝日と朝食で体内時計をリセットする

私たちの体内時計は、24時間よりも少し後ろに遅れていく傾向があります。このズレをリセットするのに最も大きな効果があるのが「朝の太陽光」です。遅くとも朝9時ごろまでには光を取り入れる必要があります。 また、朝食をとらない生活習慣も睡眠と覚醒のリズムを後退させることが示されているため、リズムが崩れている人は毎朝きちんと朝食を摂ることも必要です。


睡眠を改善する第一歩は、自分自身の睡眠習慣を客観的に評価することです。 最近では、睡眠日誌を手書きでつけるだけでなく、WEBやスマホアプリ、スマートウォッチなどを用いて客観的に睡眠状態を把握することが可能になっています。

少なくとも1週間ほど記録をつけることで、「自分は全く眠れていない」と思い込んでいても、「実は意外と眠れている時間がある」といった事実に気づくことがあります。こうした誤認(睡眠状態誤認や逆説性不眠)に気づくことは、認知行動療法のための有用な治療的ツールにもなります。


睡眠を整えることは、精神障害の治療や再発の防止だけでなく、人の健康や生活の質(QOL)、生産性を支える重要な生活習慣です。

仕事のプレッシャーで夜中何度も目が覚めてしまい、日中の仕事に支障が出ているのであれば、それは「少し休んで、ケアをしてほしい」という心と体からのSOSです。生活習慣を見直しても改善しない場合は、決して一人で抱え込まず、専門機関にご相談ください。

【当院は仕事帰りにも通いやすいクリニックです】

当院「三宮駅前こころのクリニック」は、神戸市中央区・JR三ノ宮駅から徒歩4分という通いやすい場所にあります。2026年4月1日より、すべての曜日(土日祝も含む週7日)で19時まで診療を行っております。お仕事が終わった後でも、サッと立ち寄ってご相談いただくことが可能です。

「心療内科を受診するのは少しハードルが高い…」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちは「心の不調を整える専門家」です。ただお話を聞くだけでなく、今回ご紹介したような医学的な根拠に基づいたアドバイスや、必要に応じたお薬の処方など、あなたに合った解決策を一緒に探していきます。

当院は24時間いつでもスマートフォンからWEB予約が可能です。当日のご予約も受け付けておりますので、つらい時は我慢せず、いつでもお気軽にご相談ください。あなたが再び、ぐっすりと眠ってスッキリとした朝を迎えられるよう、スタッフ一同、全力でサポートさせていただきます。


【監修・文責】
宇治田 直也(三宮駅前こころのクリニック 院長 / 精神保健指定医)
近藤 大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長 / 精神保健指定医)

【出典】
田中克俊 (2023). 外来診療で行う睡眠衛生指導. 精神科治療学, 38(6), 697-702.
厚生労働省 (2023). 健康づくりのための睡眠指針2023.