「治療を受けながら、今の仕事も続けたい」。そう考える方は、決して少なくありません。けれど、いざ職場に体調のことをどう伝えればよいのか、どんな配慮をお願いできるのか、ひとりで考えると行き詰まってしまいがちです。
そんなときに役立つのが、厚生労働省がつくった「治療と仕事の両立支援カード」という仕組みです。2026年6月の制度改定で、これまで対象外だった心の不調(精神疾患)も正式に対象となりました。このページでは、両立支援カードとは何か、どう使うのか、そして当院でできることまでを、できるだけわかりやすくご説明します。
両立支援カードとは
両立支援カード(正式には「治療と仕事の両立支援カード」)は、治療を続けながら働きたい方が、自分の働き方や職場の情報を書いて主治医に渡し、それをふまえて主治医が「働き方についての意見」を記載する、厚生労働省の決まった様式(書式)です。
ざっくり言えば、ご本人・主治医・会社の三者が、同じ情報を見ながら「どう働けば無理なく治療を続けられるか」を話し合うための、共通の用紙だと考えてください。カードにはおもに、次のような内容を書きます。
| ご本人が書く欄 | 職務内容、勤務時間、通勤方法、利用できる社内制度(時短勤務・時間単位の有給など)、職場で困っていること など |
|---|---|
| 主治医が書く欄 | 診断や症状、治療の見通し、就業についての意見(働ける/配慮があれば働ける/今は休養が必要 など)、お願いしたい配慮 など |
大切なのは、これは「診断書」とは少し違うという点です。診断書が主に医師から会社への一方向の連絡であるのに対し、両立支援カードは、ご本人の働き方の情報を起点にしてつくる“対話のための道具”です。
2026年6月の改定で何が変わった?
2026年(令和8年)6月1日の診療報酬改定で、両立支援にかかわる仕組みが大きく使いやすくなりました。おもな変更点は、次の3つです。
① 心の不調(精神疾患)も対象に
これまで、医療機関が両立支援にかかわる指導を行う際の対象は、がん・脳卒中・糖尿病・心疾患など特定の病気に限られていました。今回の改定で対象疾患の定めが廃止され、反復・継続した治療が必要で、働き続けるうえで配慮が必要な状態であれば、うつ病や適応障害、不安症などの心の不調も正式に対象となりました。
② カードを使った相談も対象に
ご本人が記入し、会社が内容を確認した両立支援カードを主治医に提出する形でも、医療機関が両立支援にかかわる指導を行えるようになりました。決まった様式があることで、ご本人・主治医・職場の間で情報を共有しやすくなります。
③ 継続したサポートへの評価が向上
就労の状況をふまえた療養上の指導や相談支援が、より手厚く評価されるようになりました。一度きりではなく、復帰後の経過も見ながら主治医が並走しやすい仕組みになっています。
カードはこう使う——3つのステップ
実際の使い方は、大きく3つのステップに分かれます。
ステップ1:ご本人が「働き方の情報」を書く
まず、ご自身の職務内容や勤務時間、通勤の負担、職場で利用できる制度などを記入します。必要に応じて、会社に勤務情報の内容を確認してもらいます。書ける範囲で構いません。書きづらいところは、診察のときに一緒に整理できます。
ステップ2:主治医が「就業上の意見」を書く
診察で症状や治療の経過、お仕事の状況をうかがったうえで、主治医が「今の状態でどんな働き方が望ましいか」「どんな配慮があると回復しやすいか」を記載します。
ステップ3:ご本人を介して会社に渡し、話し合う
記入したカードをご本人から会社にお渡しし、人事や上司、(いる場合は)産業医を交えて、具体的な配慮の内容を話し合います。この話し合いをもとに「両立支援プラン」をつくっていくこともできます。
関わる人と、それぞれの役割
両立支援は、ご本人ひとりでがんばる仕組みではありません。次の人たちが、それぞれの立場で関わります。
- ご本人(働く方):何より中心にいる存在です。どこまで情報を伝えるか、どんな働き方を望むかを決めるのは、いつもご本人です。
- 主治医(当院):症状や治療の見立てから、就業上の意見をお伝えします。必要に応じて、会社の産業医などと情報のやり取りをします。
- 会社(人事・上司・産業医など):カードの情報をもとに、勤務時間や業務内容の調整など、できる配慮を検討します。
- 外部の支援(必要に応じて):両立支援コーディネーターや産業保健総合支援センターなど、外部の相談先を利用できる場合もあります。
こんな方に向いています
両立支援カードは、たとえば次のような方に向いています。
- 通院・服薬を続けながら、今の仕事も続けたい方
- 体調に波があり、勤務時間や業務量の調整をお願いしたい方
- 上司や人事に、どう伝えればよいか迷っている方
- 復職後に、再発を防ぎながら少しずつ業務を戻していきたい方
特に、休職から復職した直後は、無理のないペースづくりが回復のカギになります。「もう一度しっかり働きたい」という気持ちと「再発はしたくない」という不安の両方を、主治医と職場で共有する土台として活用できます。
使う前に、知っておきたいこと
両立支援カードは便利な仕組みですが、使う前に知っておいていただきたいことがあります。
- 病名を必ず伝える必要はありません。会社にどこまで伝えるかは、ご本人が決められます。診断名を書かずに、必要な配慮だけを伝えることもできます。
- 会社に「必ず配慮する」法的な義務まではありません。カードは話し合いの土台であって、書いたとおりの対応が保証されるものではありません。それでも、客観的な情報があることで、話し合いは格段に進めやすくなります。
- 主導権は、いつもご本人にあります。「やっぱり今は使わない」「この部分は伝えたくない」も、もちろん大丈夫です。
体調のことを職場に伝えるかどうかは、とてもデリケートな判断です。当院では、利用を急かしたり、一律におすすめしたりすることはありません。ご本人が「使いたい」と思われたタイミングで、一緒に準備します。
当院でできること
当院(三宮駅前こころのクリニック)では、両立支援カードのご利用を希望される方に、次のような対応をしています。
- 診察のなかで、お仕事の状況やご希望をうかがいます。
- 症状や治療の経過をふまえ、主治医として就業上の意見(カードの主治医欄)を作成します。
- 必要に応じて、会社の産業医などと情報のやり取り(連携)を行います。
- 復職後も、経過を見ながら継続的にサポートします。
これらは医療保険(保険診療)の範囲で受けられます。費用の詳細は、受付または診察の際にご確認ください。
ご希望の方は、診察のときに「両立支援カードを使いたい」とお伝えください。書式の準備から記載まで、その場でご相談いただけます。
よくあるご質問
Q会社に病名を必ず伝えないといけませんか?
Aいいえ。会社にどこまで伝えるかは、ご本人が決められます。診断名を伏せて、必要な配慮だけを共有することも可能です。
Q費用はどのくらいかかりますか?
A医療保険(保険診療)の範囲で受けられます。具体的な負担額は、受付または診察でご確認ください。
Q休職中や復職のときにも使えますか?
Aはい。働き方の調整や、復職後の段階的な業務復帰の土台としても活用できます。休職・復職については、休職・復職の進め方でも詳しくご案内しています。
Qカードの書式はどこで手に入りますか?
A厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」で公開されており、様式ダウンロードページからPDF・Word・Excel形式で無料で入手できます。診察の際にご相談いただければ、記入のしかたも含めて一緒に進められます。
Q会社は必ず配慮してくれますか?
A必ず配慮する法的義務まではありませんが、客観的な情報をもとに話し合うことで、現実的な配慮につながりやすくなります。
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