こんにちは。三宮駅前こころのクリニックです。

前回のコラム「適応障害の休職中はどう過ごすべき?」では、罪悪感を持たずにしっかりと休養することの大切さをお伝えしました。

しっかりと休息をとり、心と体にエネルギーが戻ってくると、次に顔を出すのは「復職」への焦りと不安ではないでしょうか。

適応障

「家では元気になってきたけど、本当に仕事に戻れるのかな…」
「復帰したとたん、またあの辛い症状がぶり返したらどうしよう…」

このような不安を感じるのは、心が正常な防衛反応を示している証拠です。むしろ、不安があるからこそ、慎重な準備ができるとも言えます。

適応障害からの復職は、ゴールではなく「新しい生活」へのスタートラインです。
今回は、焦らず安全に社会復帰するために、精神科医の視点から「復職のゴーサインを出すための具体的な目安」について解説します。

復職を考える上で、まず知っておいていただきたい大切な事実があります。
それは、「家で普通に過ごせること」と「会社で働けること」の間には、想像以上に大きなエネルギーの差があるということです。

休職して自宅で療養している状態を、スマートフォンのバッテリーに例えてみましょう。

● 休職中の自宅生活
アプリを一つだけ開いて、Wi-Fi環境で動画を見ている状態(消費電力:小)

● 職場での勤務
複数の重いアプリを同時に立ち上げ、GPSで位置情報を拾い、バックグラウンドで通信もし続けている状態(消費電力:特大)

家で「あ、充電が100%になった!」と思っても、それはあくまで「省エネモード」での100%です。
いきなり職場という「高負荷な環境」に戻れば、あっという間にバッテリーは減り、またすぐにシャットダウン(再休職)してしまうリスクがあります。

そのため、復職の判定は「日常生活ができる」レベルではなく、「負荷をかけても大丈夫か」という、もう一段階上のレベルで行う必要があります。

では、具体的にどんな状態になれば「復職の準備ができた」と言えるのでしょうか。
診察室で医師が確認しているポイントは、主に以下の4つです。

① 生活リズムが「通勤モード」で安定しているか

これがすべての土台です。「夜眠れない」「朝起きられない」状態では、仕事のパフォーマンス以前に、出勤すること自体が新たなストレスになってしまいます。

  • 就寝・起床の時間が一定になっている(会社に行く時間に起きられている)
  • 昼寝をせずに一日を過ごせている
  • 夜、睡眠薬を使ってもいいので、まとまった時間(6〜7時間程度)眠れている

ポイントは、これを「最低でも2週間以上」続けられていることです。「昨日たまたま早起きできた」という状態では、まだ復職のゴーサインは出せません。

② 日中の活動量が戻っているか

家で横になっているだけでは、働くための体力は戻りません。
復職すると、毎日の通勤、デスクワークでの姿勢維持、階段の上り下りなど、意外と体力を使います。

  • 日中、外出して散歩や買い物ができている
  • 軽い運動(ウォーキングなど)をした翌日に、寝込むほどの疲れが残らない
  • 身だしなみ(洗顔、着替え、整髪)を整えるのが億劫ではない

③ 集中力・判断力(脳のスタミナ)は戻ったか

適応障害やうつ状態の症状として、「本が読めない」「テレビの内容が頭に入ってこない」といった集中力の低下が見られることがあります。
仕事では、複数のタスクを同時にこなしたり、臨機応変な判断が求められたりします。

  • 新聞や本を読んで、内容を理解し、要約できる
  • テレビドラマや映画を1本、集中して見続けられる
  • 料理など、段取りが必要な作業をスムーズに行える

「文字を目で追うだけで疲れてしまう」という段階では、事務作業やメールの返信といった業務はまだ負担が大きいと言えます。

④ 「原因」について考えても、心が乱れすぎないか

適応障害には、必ず明確な「ストレス因(原因)」があります。パワハラ、過重労働、人間関係などです。

  • 職場の近くに行っても、動悸や吐き気がしない
  • 仕事のことを考えても、強い不安や涙が出ることが減った
  • 原因となった出来事を、ある程度客観的に振り返ることができる

もちろん、完全に不安がゼロになることはありません。
しかし、職場のことを考えただけで寝込んでしまうような状態であれば、まだ心の傷は癒えていない証拠です。

上記のチェックリストを見て「だいたい大丈夫そうかな?」と思えたら、次は「模擬試験」を行ってみましょう。

それが、「図書館通勤(リワーク・トライアル)」です。

いきなり会社に戻るのではなく、図書館やカフェを「擬似的な職場」に見立てて、実際に通ってみるトレーニングです。
具体的なやり方は以下の通りです。

  1. 定時に起きる: 出勤するのと同じ時間に起き、朝の支度をする。
  2. スーツを着る: 部屋着ではなく、仕事用の服に着替える(ここが重要です!)。
  3. 移動する: 実際に電車やバスに乗り、図書館やカフェに行く。
  4. 作業する: 午前中〜夕方まで、読書や資格の勉強、PC作業などをして過ごす。
  5. 帰宅する: 定時になったら帰宅する。

これを週3日、慣れてきたら週5日と増やしていきます。
実際にやってみると、「満員電車が意外と怖かった」「3時間座っているだけで腰が痛くなった」「帰宅したら泥のように眠ってしまった」といった、家では気づかなかった課題が見えてきます。

この「図書館通勤」を週5日続けても、「まあ、なんとかなりそうだな」と思える疲労度であれば、復職への自信は確信に変わります。主治医としても、この実績があれば安心して復職可能の診断書を書くことができます。

ここまで「ご本人の準備」についてお話ししましたが、適応障害の復職において、それ以上に大切なことがあります。

それは、「職場環境の調整」です。

適応障害は、うつ病とは異なり、「環境と本人のミスマッチ」が原因で起こる病気です。
本人がどれだけ元気になっても、原因となったストレス環境(火元)がそのままであれば、そこに戻ればまた燃え上がってしまいます(再発)。

主治医と会社との連携

復職の診断書を作成する際、医師は単に「復職可能」と書くだけではありません。
医学的な見地から、再発を防ぐために必要な「配慮事項(条件)」を記載することがあります。

  • 残業禁止: 当面の間、定時退社を厳守する。
  • 業務量の調整: 責任の重いプロジェクトからは一時的に外れる。
  • 配置転換: 原因となった上司や部署から離れる。
  • 短時間勤務: 最初は半日勤務や週3日勤務から始める(ならし勤務)。

「会社に迷惑をかけるから、元通りに働かなきゃ」と焦る必要はありません。
会社にとっても、あなたが無理をしてすぐに再休職してしまうことが、一番避けたい事態です。

産業医や人事担当者、そして主治医と連携して、「60点の力でも回る環境」を作ってから戻ること。これが適応障害の復職成功の鍵です。

復職はいきなりフルスロットルではありません。
当院でも推奨している、一般的な「ならし勤務(リハビリ出勤)」のステップ例をご紹介します。

ステップ期間の目安勤務内容のイメージ
STEP 11〜2週間午前中のみ勤務
通勤すること、職場の空気に慣れることが目的。
業務はメールチェックや資料整理など、負担の少ないもの。
STEP 22週間〜1ヶ月15時ごろまで勤務(休憩あり)
昼食を挟んで午後も少し働く。
簡単な実務を少しずつ再開する。
STEP 31ヶ月以降定時まで勤務(残業なし)
フルタイムのリズムに戻す。
ただし、急な依頼や重い責任はまだ避ける。
STEP 43ヶ月以降〜通常業務へ(残業制限解除)
体調を見ながら、徐々に制限を解除していく。
定期的な通院でチェックを続ける。

このように、階段を一段ずつ上るように進めていきます。
当院では、患者様一人ひとりの職種や状況に合わせて、このような具体的な復職プランの相談も行っています。

復職が決まると、「やっと終わった!」「もう病院に行かなくていいんだ」と思われるかもしれません。

しかし、復職した直後の3ヶ月間が、実は一番不安定になりやすい時期でもあります。

「遅れを取り戻さなきゃ」と焦って無理をしたり、周囲の「もう大丈夫なんだね」という期待に応えようとしたりして、再びエネルギー切れを起こしてしまう方が少なくありません。
復職してからも、しばらくは定期的に通院していただき、「頑張りすぎていないか」「睡眠はとれているか」を医師と一緒に確認しながらペース配分をしていくことが大切です。

復職は、ゴールではなく、「自分らしい働き方」を見つけるための新しいスタートラインです。

「そろそろ復職できるかな?」
「会社から戻るよう言われているけれど、まだ不安だな…」

そう迷われている方は、一人で判断せずに、ぜひ私たちにご相談ください。
三宮駅前こころのクリニックは、あなたの「焦る気持ち」も「怖い気持ち」もすべて受け止め、医学的な視点から冷静に、そして温かくサポートいたします。


【監修・文責】
宇治田 直也(三宮駅前こころのクリニック 院長 / 精神保健指定医)
近藤 大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長 / 精神保健指定医)

【参考文献・出典】
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

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土日祝日も診療しておりますので、復職後のフォローアップも通いやすい環境です。