
「布団に入ってもなかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」「睡眠薬を使ってみたいけれど、やめられなくなりそうで怖い」――不眠についてのこうしたお悩みは、当院でも毎日のようにご相談いただきます。
不眠症の治療薬は、この10年で大きく変わりました。従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬に加えて、「オレキシン受容体拮抗薬」という新しい系統の薬が登場し、2024年12月にはその3剤目となる「クービビック(一般名:ダリドレキサント)」が発売されました。
この記事では、クービビックがどのような薬なのか、効果と副作用、これまでの睡眠薬との違い、服用時の注意点について、わかりやすく解説します。
クービビックとはどんな薬?
クービビック(一般名:ダリドレキサント)は、2024年12月に国内で発売された不眠症の治療薬です。「オレキシン受容体拮抗薬」という系統に属し、国内ではベルソムラ、デエビゴに続く3剤目にあたります。海外では2022年から米国や欧州で使用されています。
健康保険が適用されるお薬で、通常、成人には1日1回50mgを就寝の直前に服用します(患者さんの状態によって25mgに調整することがあります)。
眠りを促す仕組み――「覚醒のスイッチ」を弱める
私たちの脳には、「オレキシン」という、目が覚めた状態を保つための物質があります。日中はオレキシンがしっかり働くことで覚醒が保たれ、夜になるとその働きが弱まって自然な眠りに入っていきます。不眠症では、この「覚醒のスイッチ」が夜になってもうまく切れないことが、眠れない一因と考えられています。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬が脳全体の活動を鎮める「ブレーキを強める」タイプだとすると、オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンの受け皿(受容体)を一時的にブロックして「覚醒のアクセルを弱める」タイプです。脳を無理に眠らせるのではなく、覚醒の維持をゆるめることで、より自然に近いかたちで眠りを促すと考えられています。
これまでの睡眠薬との違い
ベンゾジアゼピン系睡眠薬との違い
長く使われてきたベンゾジアゼピン系(および同様の作用をもつ非ベンゾジアゼピン系)の睡眠薬は、確かな効果がある一方で、筋肉をゆるめる作用によるふらつき・転倒や、長期間の使用でやめにくくなる依存の問題が指摘されてきました。
オレキシン受容体拮抗薬は筋肉をゆるめる作用をもたないため、ふらつき・転倒への影響が比較的少なく、依存のリスクも低い系統とされています。転倒が心配な高齢の方や、睡眠薬を減らしていきたい方の選択肢としても注目されています(ただし、副作用や翌朝への影響がゼロというわけではありません。詳しくは後述します)。
同じ系統の薬(ベルソムラ・デエビゴ)との違い
| お薬(一般名) | 国内発売 | 特徴 |
|---|---|---|
| ベルソムラ (スボレキサント) | 2014年 | 国内で最初に発売されたオレキシン受容体拮抗薬 |
| デエビゴ (レンボレキサント) | 2020年 | 用量の調整幅が広く、現在広く使われている |
| クービビック (ダリドレキサント) | 2024年 | 体からの消失が比較的速く、翌朝への持ち越しを抑えることを意識した設計 |
クービビックの特徴は、体内からの薬の消失が比較的速い(消失半減期は約8時間)ことです。夜の間は効果を保ちつつ、翌朝に眠気を持ち越しにくくすることを意識して開発されました。「デエビゴで朝方に眠気が残る」という方の切り替え先の候補になることがあります。
ただし、効果や副作用の感じ方には個人差が大きく、3剤に一律の優劣があるわけではありません。どの薬が合うかは、症状のタイプ(寝つきの悪さか、夜中の目覚めか)、体質、生活リズム、併用しているお薬などをふまえて判断します。
効果と副作用
期待される効果
国際的な臨床試験では、寝つくまでの時間と、夜中に目が覚めている時間の改善が確認されています。また50mgの用量では、日中の眠気やだるさといった「昼間の調子」に関する評価指標の改善も報告されており、「夜眠れること」だけでなく「翌日を元気に過ごせること」を重視して評価された薬でもあります。
主な副作用
- 傾眠(眠気)… 臨床試験では50mgで6.8%
- 頭痛、倦怠感・疲労
- 悪夢・異常な夢
- 浮動性めまい(1.9%)
多くは軽度とされていますが、薬の影響が翌朝以降に残り、眠気や注意力の低下が起こることがあります。服用中は自動車の運転など、危険を伴う機械の操作は控えてください。気になる症状が続く場合は、自己判断で中止せず、診察時にご相談ください。
服用するときの注意点
- 就寝の直前に服用します。飲んだあとはそのまま床についてください。夜中に起きて活動する予定があるときは服用しません。
- 食事と同時、または食事の直後の服用は避けてください。効き始めが遅れることがあります。
- アルコールとの併用は避けてください。眠気やふらつきが強まるおそれがあります。
- 使用できない方:重度の肝機能障害のある方、特定のお薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど、強いCYP3A阻害作用のある薬)を使用中の方。お薬手帳を必ずご提示ください。
- ナルコレプシー(日中に強い眠気の発作が起こる病気)のある方は、症状を悪化させるおそれがあるため使用しません。
- 妊娠中・授乳中の方、その可能性のある方は、必ず事前にお申し出ください。
よくあるご質問
依存性はありますか? やめられなくなりませんか?
オレキシン受容体拮抗薬は、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べて、依存や、やめたときの反動(かえって眠れなくなる現象)のリスクが低い系統と考えられています。
ただし、不眠の背景にある要因(ストレス、生活リズム、こころの不調など)への対処も同じくらい大切です。薬を減らしたい・やめたいときも、自己判断ではなく、医師と相談しながら段階的に進めることをおすすめします。
いまベルソムラやデエビゴを使っています。切り替えはできますか?
可能な場合があります。特に「翌朝に眠気が残ってつらい」という方では、切り替えの候補になることがあります。一方で、現在の薬で調子が安定している場合は、無理に変える必要はありません。効果の感じ方には個人差がありますので、診察時にご相談ください。
何日分まで処方してもらえますか?
発売から1年間は、新しく発売された薬の決まりとして1回14日分までの制限がありましたが、2025年12月にこの制限は解除されました。現在は、症状が安定していれば、まとまった日数の処方も可能です。処方日数は症状や通院状況に応じて医師が判断します。
市販の睡眠改善薬と何が違いますか?
市販の睡眠改善薬の多くは抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬の眠くなる作用を利用したもの)で、一時的な寝つきの悪さを対象としています。作用の仕組みがまったく異なり、慢性的な不眠症への使用は想定されていません。眠れない状態が数週間以上続いている場合は、市販薬でしのぎ続けるのではなく、一度医療機関にご相談ください。
高齢の家族の不眠にも使えますか?
オレキシン受容体拮抗薬は筋肉をゆるめる作用をもたないため、転倒が心配な高齢の方の選択肢となることがあります。ただし、持病や併用しているお薬、肝臓の機能などによって使えるかどうかが変わりますので、必ず診察のうえで判断します。
当院での不眠症治療
不眠の背景には、ストレスや生活リズムの乱れだけでなく、うつ病や不安症、睡眠時無呼吸症候群などが隠れていることがあります。当院では、まず不眠の原因を丁寧に評価したうえで、睡眠衛生指導(眠りやすい生活習慣づくり)と薬物療法を組み合わせて治療を行っています。クービビックを含む新しい薬への切り替えや、長く使ってきた睡眠薬の減薬のご相談も可能です。
また、当院副院長・近藤大貴は、2026年6月に横浜で開催された第122回日本精神神経学会学術総会において、稲美しんわ病院・上田真莉子先生を筆頭とする、ダリドレキサント(クービビック)に関する症例報告に共同演者として参加いたしました。
出典・参考
- クービビック錠25mg/50mg 添付文書(ネクセラファーマ)
- Mignot E, et al. Safety and efficacy of daridorexant in patients with insomnia disorder: results from two multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trials. Lancet Neurol. 2022;21(2):125-139.
- 厚生労働科学研究班・日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」(2013)
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