巻いたヨガマットと水筒、タオル、双葉の水彩イラスト

「眠れないなら、昼間に体を動かしてください」。不眠の相談で耳にする助言です。でも、どんな運動がいいのかまでは、あまり語られてきませんでした。

2025年に、60歳以上の方を対象に、運動の種類ごとの効果を比べた研究が出ました。この研究では、筋力トレーニングも有酸素運動も、ふだんどおりの生活より睡眠の質を高めていました。順位は筋力トレーニングが1位でしたが、有酸素運動との差ははっきりしません。「筋トレも選択肢の一つ」くらいに受け取るのがちょうどよく、働く世代にそのまま当てはまるかはまた別の話です。

不眠症の症状や治療の全体像は睡眠障害(不眠症)にまとめてあります。仕事のストレスで眠れないときの生活の整え方は、プレッシャーで眠れない夜が続いたらに書きました。以下は、運動の種類にしぼった話です。

どんな研究か(60歳以上の方が対象)

60歳以上の方を対象に、運動の種類ごとに睡眠の質への効果を比べた研究です。行ったのは、タイのマヒドン大学で家庭医療を専門に研究しているチームです。2025年に、英国の医学出版社BMJグループの専門誌に掲載されました。特定の研究費は受けていない、と書かれています。

やり方は、すでに行われた研究を集めて、まとめて比べ直すというものです。1996年から2021年までの25の研究、2,170人分のデータが集められました。

集めた研究では、参加者をくじ引きのような方法でグループに分けています。運動をするグループと、ふだんどおりの生活を続けるグループ(研究によっては、眠りについて学ぶ教室を受けるグループ)を比べる形です。そのうえで、眠りの質がどれだけ変わったかを運動の種類ごとに見比べます。直接比べていない運動どうしも、共通の比べ相手を通して順位をつけられる方法で、「ネットワークメタ解析」と呼ばれます。

参加者は60歳以上で、平均年齢は約70歳でした。不眠症の診断や、眠りについての質問票の点数をもとに集められた方々です。全員が不眠症と診断されていたわけではありません。不眠症の診断を参加の条件にした研究は1件だけでした。60歳未満の研究は除かれているので、この結果が当てはまるのは60歳以上の方に限られます。

眠りの質は「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」で測っています。寝つくまでの時間や眠れた時間、途中で目が覚めるかどうかなどを自分で答える質問票です。睡眠薬を使ったか、昼間に眠気があるかも聞かれます。0点から21点まであり、点数が高いほど眠りが悪いことを表します。

研究では「3点の差があれば、治療の効果として意味があるとみなす」という目安を使っています。これは一つの先行研究にもとづく目安で、一人ひとりが実感できる改善を約束するものではありません。この記事に出てくる点数も、グループ全体の平均の差です。一人ひとりの変化量とは別のものです。

結果:筋トレも有酸素運動も、睡眠の質を良くした

ふだんどおりの生活と比べて、はっきり良くなっていたのは、筋力トレーニング・睡眠教育(眠りについて学ぶ教室)・有酸素運動・組み合わせ運動の四つでした。改善の幅がいちばん大きかったのは筋力トレーニングです。次が睡眠教育、その次が有酸素運動でした。

順位だけ見ると、筋トレがいちばん良さそうに見えます。ただ、この研究では、筋トレが有酸素運動より良いとは、はっきり言えませんでした。

「筋トレでなければ効かない」という読み方は、正しくありません。有酸素運動も、グループの平均では3点の目安を超えていました。ただ、実際の差は3点より小さい可能性もあります。

言葉の説明を少しだけ足しておきます。有酸素運動は、早歩きやジョギング・自転車・水泳のように、息をはずませながら続ける運動です。組み合わせ運動は、有酸素運動・筋トレ・バランス運動・柔軟運動(ストレッチなど)を混ぜたものです。太極拳やヨガ、ピラティスもここに入ります。

もう一つ、気になる結果があります。有酸素運動と筋トレの二つだけを組み合わせたグループです。散歩に筋トレを足す形に近いのですが、研究の数が少なく、ふだんどおりの生活との差がはっきり出ませんでした。筋トレだけを行ったグループのほうが、この組み合わせより良い結果だったことも報告されています。

研究が少ないので、「足しても意味がない」と決まったわけではありません。散歩に筋トレを足せばさらに良くなるかは、この研究では分からない。それが正直なところです。くわしい点数は、記事の終わりに「くわしい数字」としてまとめました。

筋力トレーニングの中身と、研究で行われていた量

この研究でいう筋力トレーニングは、重りや抵抗に逆らって筋肉を使う運動です。例として挙がっているのは、ウェイトを持ち上げる運動や、ダンベルなどで腕を曲げ伸ばしするアームカールです。壁に手をついて行う腕立て伏せや、マシンや器具を使う運動も入ります。

研究で運動がどのくらい行われていたかも、まとめられています。回数は週3回か週2回が中心で、1回あたり平均約54分、期間は平均約14週でした。これは筋トレだけでなく、研究全体の運動の数字です。この量をやれば眠れる、という目安でもありません。

運動の強さには、注意が要ります。研究全体では、軽めから中くらいの強さの運動が最も多くありました。けれど筋トレの研究に限ると、およそ半数がきつめの負荷(強さの高い運動)でした。ほかの運動では、強さの情報そのものが少なかったそうです。

著者たちは、筋トレがいちばん良く見えた理由の一つに、この偏りがあるかもしれないと考えています。軽い筋トレでも同じ結果になるかは、この論文だけでは言い切れません。

眠りについて学ぶこと・認知行動療法・薬

睡眠教育のグループでも、眠りの質は良くなっていました。睡眠教育とは、眠りの仕組みや生活の整え方を教わる、教室のような取り組みです。ただ、どんな内容をどう教えたのかが、くわしく書かれていない研究が多くありました。何が役に立ったのかは分からず、「眠りについて知るだけで良くなる」とまでは言えません。

睡眠教育とは別に、不眠症の治療には「認知行動療法(CBT-I)」があります。眠くなってから寝床に入る、寝床にいる時間を整える、眠りによい生活習慣を身につける、眠りへの考え方を見直す。こうしたやり方を組み合わせた治療です。

高齢の方の不眠について、2022年にまとめられた解説(総説)があります。そこでは「年をとれば眠れなくなるのは当たり前」ではない、としたうえで、この認知行動療法を最初にすすめる治療としています。長い目で見た治療では、薬よりも有効とされています。今回の運動の研究は、運動と薬を比べたものではありません。

運動の研究のほうも、認知行動療法が最初の治療であることを前提にしています。そのうえで、時間がかかることや、行える治療者が少ないことから現場では使いにくい、と書いています。それが、運動を調べた理由の一つでした。

不眠症では、症状や体調によって薬を使うこともあります。今回の研究は、運動をすれば睡眠薬をやめられる、と示したものではありません。処方されている薬は、自分の判断で止めたり減らしたりしないでください。やめたい気持ちは、そのまま診察で話してもらえれば大丈夫です。

新しいタイプの睡眠薬については、新しい不眠症治療薬「クービビック(ダリドレキサント)」とは?効果・副作用・これまでの睡眠薬との違いにまとめてあります。薬以外の選択肢の全体像は、精神科=薬?「なるべく薬に頼らない治療」の選択肢に書きました。

この研究で分かっていないこと

対象は60歳以上なので、働く世代で同じ結果になるかは分かりません。有酸素運動の結果は、研究ごとのばらつきがとても大きいものでした。この順位だけで、筋トレがほかの運動より優れていると決まったわけではありません。

眠りの質は、本人が答えた質問票の点数で測っています。脳波などの機械で測った眠りと、いつも一致するとは限らないと、著者たちも認めています。集めた研究のなかには、結果がゆがむおそれのあるものも含まれていました。たとえば、結果を判定する人が、参加者がどちらのグループか知っていた研究です。

運動の中身がばらばらで、研究の数も少ない。だから結果は慎重に読んでほしい、と著者たちは結論で述べています。

持病についての注意もあります。心臓や呼吸器の病気がある方や、血圧が高いままになっている方もいます。そうした方に運動をすすめるときは配慮が要る、と論文は書いています。

眠れないときに昼間できること:当院の考え方

三宮駅前こころのクリニックの考え方としては、体を動かす習慣がない方は、散歩でも筋トレでも、続けられそうなほうから始めてかまいません。研究の対象と年齢が違うことを前提にした、一つの考え方として読んでください。

すでに散歩をしている方が、散歩をやめて筋トレに替える必要はありません。散歩を続けながら筋トレを取り入れる、という方法もあります。足せばさらに良くなるかはこの研究では分からないので、「足さなければいけない」と考える必要もありません。

研究に出てきた筋トレには、壁に手をついた腕立て伏せのように、器具がなくても始められるものが含まれています。筋トレの研究の約半数がきつめの負荷だったことは、03で書いたとおりです。

何時までに運動を終えればよいかは、この研究では分かりません。寝る直前に激しい運動をするのは避ける、という一般的な考え方は、これまでどおりです。運動したあとに寝つきが悪くなるようなら、時間帯や運動の強さを見直してみてください。

心臓や呼吸器の病気がある方、血圧の管理に不安がある方は、始める前にかかりつけの医師に相談してください。筋トレのあいだは、息を止めないようにします。運動中に胸の痛みや動悸、めまい・ふらつき、強い関節の痛みが出たら、そこで中止してください。痛みが出るときは、別の運動に替えて続けるのではなく、医師に相談してください。

運動は不眠症の治療の代わりではなく、治療に加える選択肢の一つです。眠れない日が続いて、昼間の生活に支障が出ているなら、受診を考えてみてください。受診の目安は睡眠障害(不眠症)にまとめています。気分の落ち込みがあるときの運動については、うつ病と運動|1日7,500歩から始める心のケアで歩数の研究を紹介しています。

よくあるご質問

筋トレをすれば、睡眠薬をやめられますか。

この研究が調べたのは、運動で眠りの質が良くなるかどうかです。睡眠薬をやめられるかは調べていません。眠れない理由や体調によって、薬を続けたほうがいい時期と、減らしていける時期があります。処方された薬は自分の判断で止めず、減らしたい気持ちを診察でそのまま話してください。

不眠のための筋トレは、どのくらいの量を、どのくらい続ければいいですか。

この研究からは、眠りのために必要な筋トレの回数や期間は決められません。研究全体では、週2〜3回、1回平均約54分、平均約14週間のプログラムが使われていました。これは筋トレだけの数字ではなく、この量をやれば眠れるという目安でもありません。持病のある方は、始める前にかかりつけの医師に相談してください。

夜に運動すると眠れなくなると聞きました。何時までに済ませればいいですか。

この研究では、何時までに運動を終えるべきかは分かりません。寝る直前の激しい運動は避ける、という一般的な考え方はこれまでどおりです。運動したあとに寝つきが悪くなるなら、時間帯や運動の強さを見直してみてください。

60歳未満の働く世代ですが、この研究の結果は参考になりますか。

運動と不眠のこの研究は60歳以上の方を対象にしていて、60歳未満の研究は除かれています。この研究だけでは、60歳未満で同じ効果や順位になるかは分かりません。年齢にかかわらず、持病のある方は始める前にかかりつけの医師に相談してください。

散歩やウォーキングだけでは、不眠に効果がないのですか。

この研究では、有酸素運動もふだんどおりの生活より眠りの質を高めていました。順位では筋トレが1位でしたが、有酸素運動との差ははっきりしたものではありません。散歩に筋トレを足せばさらに良くなるかも、この研究では分かりません。散歩を続けている方が、散歩をやめて筋トレに替える必要はありません。

受診のご案内(眠れない日が続くとき)

三宮駅前こころのクリニック(神戸市中央区・JR三ノ宮駅から徒歩4分の精神科・心療内科)では、不眠症の診療を行っています。診察では、眠れない日がいつから続いているか、昼間にどんな支障が出ているかをうかがいます。生活のリズムや体の病気、飲んでいる薬についてもお聞きします。そのうえで、生活習慣の見直しと薬の両面から、治療の進め方を一緒に決めていきます。

土日祝も診療しているので、平日に休みを取りにくい方も受診しやすい体制です。WEB予約は24時間受け付けています。「薬を飲むほどではないと思うけれど、眠れない日が続いている」という段階のご相談でかまいません。昼間に何ができるかも、診察のなかで一緒に考えます。

くわしい数字(研究の結果)

本文で省いた点数をまとめます。眠りの質の点数(0〜21点・高いほど悪い)が、ふだんどおりの生活と比べてどれだけ下がったかを、グループの平均で示したものです。かっこ内は、本当の差がありそうな範囲(統計でいう95%信頼区間)です。この範囲が0をまたぐと、差がはっきりしないことを意味します。順位づけの解析に使われたのは24の研究・2,045人でした。

  • 筋力トレーニング: −5.75点(−8.06〜−3.45)
  • 睡眠教育: −4.63点(−7.12〜−2.15)
  • 有酸素運動: −3.76点(−5.67〜−1.85)
  • 組み合わせ運動(太極拳・ヨガなどを含む): −2.54点(−3.65〜−1.43)
  • 有酸素運動+筋力トレーニング: −1.47点(−4.83〜1.89)
  • 筋力トレーニング+バランス運動: −1.57点(−5.80〜2.66)
  • 筋力トレーニング+柔軟運動: −1.22点(−5.29〜2.85)

筋力トレーニングだけのグループは、有酸素運動+筋力トレーニングのグループより4.28点低い結果でした(−8.35〜−0.22)。筋力トレーニングと有酸素運動の差は、範囲が0をまたいでいて、はっきりしません。運動とふだんどおりの生活を直接比べた研究が十分にあったのは、有酸素運動と組み合わせ運動の二つです。有酸素運動は −4.36点(−7.86〜−0.86)、組み合わせ運動は −2.35点(−3.13〜−1.57)でした。有酸素運動は、研究ごとの結果のばらつきがとても大きいものでした。

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参照・出典元

  • Bahalayothin P, Nagaviroj K, Anothaisintawee T. Impact of different types of physical exercise on sleep quality in older population with insomnia: a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. Family Medicine and Community Health. 2025;13(1):e003056. doi:10.1136/fmch-2024-003056
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40037986/(PMID: 40037986)
    ※本文で「論文」「この研究」として紹介しているのは、このネットワークメタ解析です。
  • Brewster GS, Riegel B, Gehrman PR. Insomnia in the Older Adult. Sleep Medicine Clinics. 2022;17(2):233-239. doi:10.1016/j.jsmc.2022.03.004
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35659076/(PMID: 35659076)
    ※本文04で「2022年の総説」として紹介しているものです。総説のため、数値は引用していません。
  • Buysse DJ, Reynolds CF 3rd, Monk TH, Berman SR, Kupfer DJ. The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry Research. 1989;28(2):193-213.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2748771/(PMID: 2748771)
    ※本文中の「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」の原著。上記論文の参考文献34として引用されています。

本記事で紹介した数値は、海外(主にアジア・北米・南米・欧州)で行われた60歳以上の方を対象とする研究にもとづくものです。日本の働く世代の状況とは異なる場合があります。

本記事で紹介した研究の対象は60歳以上の方で、結果がすべての年齢の方に当てはまるとは限りません。06節の取り入れ方は当院の考え方であり、研究で確かめられた内容そのものではありません。記事の内容は一般的な情報提供を目的としたもので、個々の診断や治療方針を示すものではありません。持病のある方は、運動を始める前にかかりつけの医師にご相談ください。処方されている薬の変更や中止は、自己判断で行わず診察でご相談ください。

この記事の執筆・監修
近藤 大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長)

近藤 大貴執筆|三宮駅前こころのクリニック 副院長/精神保健指定医

藤田医科大学卒業。名古屋市立大学病院こころの医療センター、豊川市民病院、稲美しんわ病院(副院長)にて精神科診療に従事。適応障害・うつ病など、働く方のメンタルヘルス診療に力を入れている。

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宇治田 直也(三宮駅前こころのクリニック 院長)

宇治田 直也監修|三宮駅前こころのクリニック 院長/精神保健指定医・公認心理師・日本医師会認定産業医

札幌医科大学卒業。神戸大学病院での勤務を経て精神科へ転向し、明石こころのホスピタル、戸田病院(医局長・診療部長)にて診療に従事。

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公開日 2026年10月10日/最終更新 2026年10月10日

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