絡まった糸がゆるやかにほどけて、緑の双葉につながる水彩イラスト

職場の雑談だけが、なぜか異様に疲れる。相手の言葉の裏が読めず、あとになって「怒らせていた」と知る。急な予定変更があった日は、それだけで一日分の力を使いきってしまう。

うまく言葉にできないしんどさを、子どものころからずっと抱えたまま大人になった。そういう方が、就職や異動、結婚、育児といった環境の変化をきっかけに、初めて発達の特性に行き当たることがあります。

2025年、アメリカの研究者たちが、自閉スペクトラム症についての論文を発表しました。これまでの研究を整理した「レビュー論文」と呼ばれるものです。「子どもの話」ではなく、生涯にわたる特性としてとらえ直しています。大人になってから特性に気づくのはなぜなのか。そのとき医療機関では何を確かめるのか。この論文をもとに整理します。

大人になってから自閉スペクトラム症(ASD)と診断されることはあります。特性そのものは発達の早い時期からみられるものです。ただ、子どものころは目立たないことがあります。就職や結婚、育児などで求められることが増えたとき、初めて困りごととして表に出る場合があります。大人の診断では、いまの困りごとだけでなく、幼いころからの様子もあわせて確かめます。インターネットのチェックリストの点数だけで決まるものではありません。

大人になってから診断にたどりつく人たち

自閉スペクトラム症(ASD)は、発達障害(神経発達症)のひとつです。その特性は発達の早い時期からみられ、生涯を通じて続くものとされています。

アメリカの一部の地域で2020年に行われた調査では、8歳の子どもの36人に1人と報告されています。大人については、アメリカの18歳以上でおよそ2.21%という推計があります。ただ、大人を対象にした調査は方法が難しく、実際にはもっと多いのではないかとも言われています。いずれもアメリカでの調査にもとづく数字です。

近年は、大人になってから初めて診断を求める方が増えています。特性の幅広さが知られるようになったことが、その背景にあるようです。

もうひとつ、知っておいていただきたい報告があります。大人になって初めて診断を求める方の集団は、子どものころに診断を受けた方の集団とは、平均的な様子が違うというものです。知的な面での困りごとが平均して少なく、女性が多い。不安症や気分の不調が重なっている方も多いと報告されています。学校では困りごとが目立たず、大人になってこころの不調というかたちで相談につながる。そういう方が含まれている、という見方ができます。あくまで全体の傾向で、一人ひとりに当てはまるわけではありません。

子どものころに気づかれにくい理由

自閉スペクトラム症の診断では、大きく2つの面をみます。ひとつは、人との関わりやコミュニケーションでの困りごと。もうひとつは、感覚のかたよりや、決まったやり方・興味へのこだわりです。そしてこれらのサインが発達の早い時期からあったことが、診断を考えるうえでの前提になります。

早い時期からあるのなら、幼いころに誰かが気づいたはずではないか。ところが論文は、国際的に使われている診断基準を引きながら、そうならない場合をはっきり書いています。特性がはっきり表に出るのは、まわりから求められるものが、その人の対応できる範囲を超えたときである場合がある。あるいは、身につけた対処のしかたによって覆い隠されている場合がある、と。

小学校の教室は、時間割が決まっていて、やることも与えられます。そこでは「まじめでおとなしい子」で通っていた人が、雑談と臨機応変さを求められる職場に入る。管理職になる。育児が始まる。そうして初めて立ちゆかなくなる。特性が途中で現れたのではなく、求められる量のほうが増えたという見方です。

女性で診断が遅れやすいこと

自閉スペクトラム症の診断を受ける人は、男性のほうが多いことが知られています。出生時の性別でみて、およそ4対1と報告されています。ただしこの比率は、どういう方法で対象者を集めた調査かによって変わります。

女性、とくに知的な能力が高い方は診断されにくく、男性より遅い年齢で診断を受けやすい。複数の研究がそう示しています。理由としては、いくつかの説が挙げられています。まわりに合わせて特性を覆い隠すこと。女性のほうが同じ遺伝的な条件でも症状が出にくいのではないか、という説。症状の現れ方そのものの性差。そして、診断に使う検査が女性では拾いきれていない可能性。どれも候補として並んでいる段階で、結論は出ていません。

実際、中心となる症状に性差があるかどうかは、研究の結果が割れています。女性のほうが軽いとする報告。逆に、人との関わりの困難は女性のほうが強いとする報告。差はないとする報告。だからこそ、行動をみるときには性別という背景をていねいに考える必要がある。診断する側は、そう釘を刺されています。

カモフラージュという消耗

カモフラージュとは、人前で「普通に見えるように」ふるまうために工夫を重ねることをいいます。相手の表情を読む。会話の流れを前もって想定しておく。疲れていても笑顔をつくる。こうした例そのものは論文に挙げられているわけではなく、一般的な説明としてよく使われるものです。

論文でカモフラージュが出てくるのは2か所です。女性の診断が遅れる理由の候補として。そして、孤独感の強さと結びついている要素のひとつとしてです。

自閉スペクトラム症のある成人は、そうでない方より孤独感を強く感じているという報告があります。特性の強さ、不安や抑うつ、自死についての考え、感覚的な刺激を避けること、カモフラージュ、失業。そして社会の側の誤解。これらがいずれも、孤独感の強さと関連していたとされています。

よくある誤解にも触れておきます。自閉スペクトラム症のある人は人と関わりたくないのだ、という思い込みです。これははっきり否定されています。多くの方が、人とのつながりを望んでいる。望みながら、関係の数や質が伴わない。関わり方の好みも違います。対面で自由に話し続けるより、文字でのやりとりや、目的のはっきりした場(映画や演奏会など)を好む方もいます。

「社交的にふるまえているから特性はない」とは限りません。外からは困りごとが見えにくくても、まわりに合わせるための負担が大きい場合があります。その負担の程度は、人によって違います。

大人の診断で確かめること

大人の診断は、診る側にとっても受ける側にとっても難しい。論文はそう率直に書いています。診る側の難しさは3点です。子どものころとは症状の現れ方が違うこと。あわせて起きているこころの不調の症状と重なって、見分けにくいこと。そして、幼いころの様子を話せる人を見つけにくいことです。

受ける側が感じている壁も報告されています。発達の評価を行える医療機関が限られていること。信じてもらえないのではないかという不安(とくに女性で報告されています)。そして、評価にかかる費用の負担です。

セルフチェックの結果をどう扱うか

インターネットのセルフチェックの結果だけで、自閉スペクトラム症かどうかを判断することはできません。医療機関では、質問紙の点数を手がかりのひとつとして扱います。そのうえで、診察や、子どものころからの様子の聞き取りと組み合わせます。

大人の場合、幼いころを知る家族が同席できないことも多く、自分で記入する質問紙を使う場面が増えます。自分の感じ方を本人の言葉で捉えるうえで、こうした質問紙は欠かせません。

そのうえで、結果の読み方には注意が必要だとも書かれています。自分で記入した結果と、家族など周囲の人がつけた評価とでは、複数の項目で結果が一致しないことが示されています。また、自分で記入する質問紙は、自閉スペクトラム症と他のこころの不調とを見分ける精度が低いと報告されています。

チェックリストで高い点が出た。それは受診を考えるきっかけとして十分に意味があります。ただ、その一枚で「自分はASDだ」とも「違う」とも決まりません。点数が高く出る背景に、不安症やうつ病、ADHDなど別の状態が関わっていることもあります。

くわしい評価に含まれるもの

論文が示すくわしい評価は、次の3つを組み合わせるものです。

  • 直接の行動観察(診察の場でのご本人の様子)
  • 子どものころからの様子と、いまの様子についての聞き取り。人との関わり、こだわりや感覚、生活のスキル、言葉や知的な力までを含みます
  • 認知(知能)検査

ひとつ補っておきます。これは論文が勧める評価の組み立て方で、診断基準そのものに知能検査が必須という意味ではありません。知能検査は、認知の特性や支援の手がかりをつかむための補助です。すべての方に必要なわけではありません。WAIS-IVなどの知能検査だけで自閉スペクトラム症と診断できるものでもありません。どの検査を行うか、行わずに経過をみるかは、診察のなかで判断します。

検査の点数は、年齢や文化的な背景、性別、認知の力をふまえて読む必要があるとされています。使われている検査の多くは欧米の英語圏で確かめられたものです。文化のちがいによるかたよりへの懸念も書かれています。

親から幼いころの話を聞けない場合にも、記述があります。きょうだいや幼なじみなど、当時を知る方から話を聞く方法です。大人では、複数の人から情報を集めるやり方が役に立つとされています。ご家族の同席が難しいことは、相談をあきらめる理由になりません。

重なりやすいこころの不調

自閉スペクトラム症のある方には、他のこころの不調が重なりやすいことが知られています。海外の研究をまとめた数字では、大人で不安症が約27%、うつ病が約23%(知的障害のない方)、ADHDが約25.7%。ただし調査の方法や対象の年齢によって幅が大きく、数字は目安と考えてください。てんかんや睡眠の問題、消化器の症状も重なりやすいとされています。

とくに注意が促されているのが、片方の症状のかげに、もう片方が隠れてしまうことです。症状が重なっているために、片方の診断だけがつく。もう一方は十分に検討されないまま終わってしまう。うつ病や不安症の治療を続けているのに思うように進まない。その背景に、まだ整理されていない発達の特性がある。実際の診療でも出会う場面です。

限界も指摘されています。不安や抑うつを測る質問紙のうち、自閉スペクトラム症のある方を対象に確かめられたものは、ごく少ないのです。点数だけでは判断が難しく、経過を含めた評価が必要になります。

働くことについても触れておきます。自閉スペクトラム症のある成人は、失業率が高いとされています。働いている場合でも、資格や能力に見合わない立場、短い勤務時間、低い賃金にとどまることが多い。こうした就労の状況は、生活の質の低さやこころの健康上の問題と関連しているとされています。

わかったあとに変わること

診断がついたら何が始まるのか。まず率直にお伝えします。中心となる特性そのものをなくす薬は、現在のところありません。論文もその点をはっきり述べています。薬が担うのは、あわせて起きている不安、いらだち、多動といった症状への対処です。

では診断に意味がないかというと、そうではありません。論文が要点の第一に挙げているのは、評価の位置づけです。くわしい評価は、その人の強みと苦手をつかみ、必要な支援と目標を立てるために行う。診断は人を分類するラベルではなく、環境を整えるための地図として使われます。

支援に唯一の正解はない、というのも同じ立場です。年齢、こころの状態、言葉、認知の力、運動、生活のスキル。こうした要素をふまえて一人ひとりに合わせ、状況が変われば組み替えていく。近年すすめられている「段階的な支援」の考え方として紹介されています。

必要な支援は、一生同じではありません。論文がくり返し強調している点です。学校を出る18〜22歳ごろに支援が急に途切れる問題も、海外で指摘されています。生活のスキルについては、まだ研究の少ない領域とされています。そのうえで、ある長期の追跡調査では、日常生活の自立度が40歳ごろから下がる傾向が報告されました。すべての方に当てはまる結果ではありません。それでも、今はこれで足りている、が数年後も同じとは限らない。定期的に見直せる相談先を持っておくことに、実際的な意味があります。

日本では、無理のない範囲での配慮を申し出ることができます。職場での配慮は、2016年から事業主の義務とされています(障害者雇用促進法)。指示を口頭ではなく文書でもらう、感覚の過敏さのために静かな場所で休憩をとる、といった調整がこれにあたります。お店やサービスを利用する場面についても、2024年4月から事業者に配慮の義務が広がりました(障害者差別解消法)。どちらの場面でも、自分の特性が整理されていると、相手に伝えやすくなります。

よくあるご質問

この歳で診断を受けることに、意味はあるのでしょうか。

診断そのものより、評価の過程で得られる整理に意味があると考えています。くわしい評価は、強みと苦手をつかんで支援の目標を立てるためのものです。何が負担になりやすいかがはっきりすると、職場での配慮の相談や、生活の組み立て方を変える手がかりになります。

ご自身のこれまでの経験を、別の角度から整理するきっかけになる場合もあります。

ネットのセルフチェックで高い点が出ました。これで診断はつきますか。

質問紙の点数だけで診断は決まりません。自分で記入する質問紙は、自閉スペクトラム症と他のこころの不調とを見分ける精度が低いと報告されています。家族など周囲の人がつけた評価との間でも、結果が一致しないことがあると示されています。

ただ、受診のきっかけとしては十分です。診察では、これまでの経過や生活の様子をあわせて伺い、必要に応じて検査を組み合わせて評価します。

親に幼いころのことを聞けません。それでも相談できますか。

ご相談いただけます。大人の評価では、親に限らず、きょうだいや当時を知る方など、複数の人から話を聞く方法が挙げられています。なお当院では、幼いころの様子が分かる記録があればお持ちいただくようご案内しています。母子手帳、通知表、当時の写真や作文などです(これは論文の記載ではなく、当院独自のご案内です)。

手がかりが少ない場合は、そのことも含めて、現在の困りごとを中心に整理していきます。

自閉スペクトラム症は治りますか。薬はありますか。

中心となる特性そのものをなくす薬は、現在のところありません。薬が担うのは、あわせて起きている不安や抑うつ、いらだちなどへの対処です。

治療の中心は、特性を理解したうえで環境を整え、負担のかかりにくいやり方を見つけていくことです。当院の考え方は自閉スペクトラム症(ASD)の診療案内でもご説明しています。

診断がつかなかった場合、どうなりますか。

診断名がつかないことと、困りごとがないことは別です。診断基準を満たさない場合でも、不安症やうつ病、ADHDなど別の背景が見つかることがあります。その場合は、そちらの治療をご提案します。

また、特性の現れ方は年齢とともに変わることがあります。時期を置いて、改めて評価することもあります。

神戸・三宮で大人のASDを相談するなら

三宮駅前こころのクリニックは、JR三ノ宮駅から徒歩4分の精神科・心療内科です。自閉スペクトラム症をはじめとする、大人の発達障害についてのご相談をお受けしています。診察は、現在の困りごとと、これまでの生活の経過を伺うところから始めます。あわせて起きている不安や抑うつがある場合は、そちらの治療も並行して進めます。

心理検査のうち、知能検査(WAIS-IV・WISC-V)は月・火・木・土曜日に予約制で実施しています。費用は自費22,000円(税込)です。検査の実施料、集計・分析料、結果報告書の作成料が含まれます。結果のご報告は、検査から約1〜2週間後です。

AQ(自閉スペクトラム症の傾向をみる検査)は、保険診療の範囲で実施しています。80点(3割負担の方で240円)です。CAARS(ADHDの特性をみる検査)は、診察のなかで医師が必要と判断した場合に実施します。費用は診察料に含まれます(検査単体でのご希望はお受けしていません)。これらの実施日については、診察時にご相談ください。

どの検査を行うかは、診察のなかでご相談のうえ決めていきます。検査の内容や流れは心理検査のご案内で詳しくご説明しています。

三宮駅前こころのクリニックの診療時間は、全曜日9:30〜13:30/15:00〜19:00です。土日祝も診療しています。ご予約はお電話(078-891-8558)またはWEB予約(24時間受付)から承ります。

出典・参考

  • Tafolla M, Singer H, Lord C. Autism Spectrum Disorder Across the Lifespan. Annual Review of Clinical Psychology. 2025;21:193-220.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39836874/(PMID: 39836874)
    ※本文で「論文」として紹介しているのは、この総説です。
  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5). 2013.(本文中の「国際的に使われている診断基準」)
  • 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(改正法は2024年4月1日施行。事業者による合理的配慮の提供が義務化)
  • 厚生労働省「障害者の雇用の促進等に関する法律」(雇用の分野における合理的配慮の提供義務は2016年4月施行)

本記事で紹介した有病率や、こころの不調が重なる割合などの数値は、おもに海外(米国および英語圏)の調査にもとづくものです。日本での状況とは異なる場合があります。また、記事の内容は一般的な情報提供を目的としたもので、個々の診断や治療方針を示すものではありません。

この記事の執筆・監修
近藤 大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長)

近藤 大貴執筆|三宮駅前こころのクリニック 副院長/精神保健指定医

藤田医科大学卒業。名古屋市立大学病院こころの医療センター、豊川市民病院、稲美しんわ病院(副院長)にて精神科診療に従事。成人の発達特性のご相談を含む、大人のメンタルヘルス診療に力を入れている。

副院長プロフィールを見る →
宇治田 直也(三宮駅前こころのクリニック 院長)

宇治田 直也監修|三宮駅前こころのクリニック 院長/精神保健指定医

札幌医科大学卒業。明石こころのホスピタルで精神科診療に従事し、戸田病院では医局長・診療部長を歴任。公認心理師・日本医師会認定産業医。

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