クリップボードにはさんだ問診票と鉛筆、双葉の水彩イラスト

「そんなことで休むなんて甘えだ」。人に言われた一言が抜けない方もいれば、誰にも言われていないのに自分でそう思い込んでいる方もいます。仕事に行こうとすると涙が出るのに、休みの日は普通に過ごせてしまう。この落差が、自分を責める材料になります。

適応障害を、気合や性格の強さだけで説明することはできません。医学的な診断の手引きがあり、医師はそれに沿って、いつ何が起きたのか、今どれくらい生活に支障が出ているのかを確認していきます。ここでは、その診断がどのように行われるのかを説明します。「自分の場合は病気と呼べるほどではない」と受診をためらっている方に、判断の物差しが実際に存在することを知っていただければと思います。

この記事の要点

  • 適応障害は甘えではありません。国際的に使われている診断の手引きに沿って、医師が診察のうえで判断します。
  • 適応障害の診断の手引きでは、はっきりしたストレスの原因があること、その発生から間を置かずに症状が現れていることが確認されます。あわせて、著しい苦痛があるか、生活・仕事への支障が大きいか、そのいずれかが認められるかも確かめます。
  • 適応障害の診断では、うつ病など他の病気によるものではないか、身近な方を亡くしたあとの反応であれば遷延性悲嘆症など別の診断がふさわしくないかも、あわせて確かめます。
  • 適応障害は環境の影響を強く受けます。原因から離れると症状がやわらぐことがありますが、経過には個人差があり、必ず回復するというものではありません。この変化は、我慢の量では説明がつきません。
  • 適応障害の診断は、診察を通じて医師が総合的に行うものです。インターネットのチェックリストで自己判断できるものではありません。

三宮駅前こころのクリニック(神戸市中央区旭通・JR三ノ宮駅徒歩4分)は、神戸・三宮で適応障害のご相談をいただける精神科・心療内科です。診察を担当するのは院長・宇治田直也と副院長・近藤大貴(いずれも精神保健指定医)で、土日祝も診療しています。

適応障害という状態の全体像(症状、原因、治療の進め方)は適応障害のページにまとめてあります。本記事は、そのなかでも「どうやって診断するのか」という一点を取り出して説明するものです。

なぜ適応障害は「甘え」と誤解されやすいのか

適応障害は甘えではありません。ただ、外から見えにくい特徴がこの状態にはいくつかあり、誤解の多くはそこから生まれます。

検査の数値だけでは見えない

骨が折れていればレントゲンに写り、炎症があれば血液検査の数字が動きます。適応障害を単独で確定できる血液検査や画像検査はありません。診察で症状と経過、生活への影響を確認し、必要に応じて身体の病気などを除外するための検査を行うことがあります。

検査値には表れませんが、症状の経過や生活への影響は、診断のうえで重要な情報になります。それでも、目に見える証拠がないという一点だけで「本当に病気なのか」と疑われる。受診を迷う方が、まずここでつまずきます。

場面によって症状の出方が変わる

適応障害では、ストレスの原因から離れているあいだは症状がやわらぐことがあります。月曜の朝はどうしても体が動かないのに、土曜は友人と出かけられる。周囲からは「遊ぶ元気はあるじゃないか」と見えてしまいます。

症状が特定の状況で強まり、そこから離れると変化するかどうかは、診察で確認する情報のひとつです。ただし、こうした変化だけで適応障害と診断できるわけではありません。周囲から分かりにくいのは確かですが、休日に動けたことをご自身の落ち度のように受け取る必要はありません。休職中の外出についても同じことが言えます。回復の段階に応じた過ごし方は休職中の過ごし方の記事で説明しています。

きっかけが説明できてしまう

異動、上司の交代、業務量の急増、慣れない職場での孤立。適応障害には、はっきりしたきっかけがあります。原因が言葉で説明できるぶん、「同じ部署の人はみんな耐えている」「あなただけ倒れるのは弱いからだ」という話にすり替わりやすい。

同じ出来事でも受ける影響は人によって異なり、本人の意志の強さだけで発症の有無を説明することはできません。その人がそれまでに背負ってきたもの、支えてくれる人がいるかどうか、睡眠がとれているかどうか。そうした条件が重なった結果として生じます。強さの順位づけの話ではありません。

適応障害の診断には、医学的な物差しがある

適応障害は、医師の主観だけで決まる診断名ではありません。国際的に使われている診断の手引きがあり、確認すべき点が定められています。

診断の手引きで確かめられること

ここで挙げるのは診断の考え方であって、ご自身で当てはまるかどうかを判定するための項目ではありません。

世界保健機関がまとめている国際的な疾病分類(ICD)と、米国精神医学会の診断の手引き(DSM)に、それぞれ適応障害の項目があります。細かい表現や区分は版によって異なりますが、確認される内容の大きな枠組みは共通しています。

まず、はっきりしたストレスの原因があるかどうか。そして、その原因が生じてから間を置かずに、気分の落ち込みや不安、行動の変化が現れているかどうか。目安となる期間は手引きによって幅があり、米国精神医学会の手引きでは3か月以内、世界保健機関の分類ではより短い期間が想定されています。この時間的な結びつきが土台になります。

次に、その状態がどの程度のものか。置かれた状況の重さから考えて釣り合わないほど苦痛が強いか、あるいは仕事や学業、家事、人づきあいに大きな支障が出ているか。いずれかが認められることが必要とされています。両方そろっている必要はありません。仕事や家事が表面上は回っていても、苦痛が強い状態は診断の対象になり得ます。

さらに、他の可能性を外していく作業があります。うつ病など別の病気の診断基準を満たしていないか。もともとあった不調が悪化しただけではないか。身近な方を亡くしたあとの反応であれば、経過や背景をふまえて、遷延性悲嘆症など別の診断がふさわしくないか。こうした確認を経て、はじめて適応障害という診断名にたどりつきます。とくにうつ病との見分けは大切で、必要な治療も休養の考え方も変わってきます。ここは診察のなかで医師が判断する部分です。

経過についても、診断の手引きによって表現が異なります。米国精神医学会の手引きでは、原因となった出来事とその影響が終わったあと、症状が6か月を超えて続かないことが目安として整理されています。世界保健機関の分類では、多くは6か月以内に軽快するとされていますが、原因が続く場合などには長引くことがあります。裏を返せば、原因が続いているあいだは症状も続き得るということです。だからこそ、環境をどうするかが治療の中心になります。

チェックリストで自己判断はできません

ここまで挙げた点は、医師が診察で確認していく観点です。当てはまる項目を数えて診断名が決まるわけではありません。症状の重さ、経過、生活への影響、他の病気の可能性を一つずつ照らし合わせたうえで、総合的に判断します。

インターネットのセルフチェックは、受診を考えるきっかけとしては役に立ちます。ただ、その結果がそのまま診断になることはありません。当てはまらなかったから受診してはいけない、ということもありません。判断の材料は、実際に話をうかがってはじめて揃います。

診察で医師が確かめていること

初診では、症状そのものと同じくらい、その症状がいつ、どんな状況で始まったかをくわしくうかがいます。

いつ、何をきっかけに始まったか

異動の内示が出た週から眠れなくなった。新しい上司が来てから、通勤電車で吐き気が出るようになった。この順序が、診断の重要な手がかりになります。

日付まで正確に思い出せなくてかまいません。「たしか連休明けくらいから」で十分です。むしろ、思い出そうとして苦しくなるようであれば、その反応自体もお伝えください。

生活や仕事にどれくらい影響が出ているか

睡眠、食事、出勤、家事、人と会うこと。これまでできていたことのうち、何ができなくなっているか。ここで確認しているのは気力の量ではなく、実際に起きている事実です。

「なんとか出勤はしているが、着替えるのに1時間かかる」。こうした具体的な話は、診断のうえで意味を持ちます。ご自身では大したことではないと感じている部分にこそ、判断の材料が含まれています。

他の病気の可能性はないか

これまでの経過、過去にかかった病気、飲んでいる薬、体の不調、お酒の量。うつ病や不安症のほか、甲状腺の病気など、似た症状を示す状態は複数あります。

適応障害と決めつけずに確かめることが、結果として適切な治療につながります。この診断名にたどりつく過程は、他の可能性を丁寧に外していく作業でもあります。

診断書が必要になった場合

診察の結果、療養が必要と医師が判断した場合には、診断書を作成します。当院では即日発行も可能です(医師が必要と判断した場合。診察内容や書式によっては後日のお渡しになります)。書かれる内容や費用、受け取りまでの流れは適応障害の診断書の記事でくわしく説明しています。

適応障害は環境の影響を強く受ける状態である

適応障害は、置かれた状況とその人の状態との相互作用で生じます。性格の強さだけで決まるものではありません。

ストレスの原因から離れると症状がやわらぐことがありますが、経過には個人差があり、原因から離れれば必ず回復するというものではありません。負担が長く続いた場合や、複数の問題が重なっている場合には、時間がかかることもあります。

適応障害では、負荷が下がると状態が変わることがあります。業務量の調整、配置の見直し、休職といった環境を動かす対応が治療の柱になるのは、このためです。

我慢を重ねて働き続けた末に、この状態に至ることもあります。「もう少し頑張れるはずだ」と自分に言い聞かせながら出勤を続け、体が動かなくなってから受診に至る。頑張れなかったから発症する、というものではありません。

治療は薬から始まるとは限りません。適応障害では環境の調整と精神療法が中心で、薬はあくまで補助的な役割です。お薬に不安がある場合は、その旨を診察でお伝えください。心理カウンセリングについては心理カウンセリングのページでご案内しています。

「自分が弱いだけかもしれない」と迷っている方へ

つらさの度合いをご自身で採点していただく必要はありません。生活への支障は大切な情報ですが、それだけで受診の要否が決まるわけでもありません。生活が表面上回っていても、苦痛が強い状態は診察の対象になります。

「これくらいで病院に行っていいのか」という迷いが、受診を遅らせます。ただ、原因となっている状況が続くと、症状が慢性化したり、うつ病に移行したりすることがあります。経過を見ていくなかで、あとから適応障害以外の診断が明らかになることもあります。早い段階で状況を整理しておく意味は、そこにあります。

受診したからといって、必ず病名がつくわけでも、必ず薬が出るわけでも、必ず休職になるわけでもありません。診察の結果、「今は生活の組み立てを少し変えて様子を見ましょう」となることもあります。診断名は、診察で得られた情報と診断基準にもとづいて医師が判断します。制度を利用するかどうかで診断の有無が決まるわけではありません。診断に至らない場合でも、今の困りごとやこの先の対応についてご相談いただけます。

費用の面も、気になるところだと思います。診察には健康保険が適用されます。通院が続く場合には、医療費の自己負担を軽くする自立支援医療(精神通院医療)を利用できることがあります。支給認定を受けると、精神疾患に関係する保険診療の自己負担が原則1割になります。対象は受給者証に記載された指定医療機関・薬局などで受けた診療です。所得区分や「重度かつ継続」に該当するかどうかなどに応じて、月額の上限が設けられる場合があります。当院は指定自立支援医療機関です。ご利用にあたっては、当院を受給者証の対象医療機関とする手続きが必要です。申請の窓口や必要書類は自立支援医療のページでご案内しています。休職することになった場合の収入については適応障害と傷病手当金の記事にまとめました。

初診でうまく話せなくても大丈夫です

話を整理してからお越しいただく必要はありません。うまく言葉にならないという状態そのものも、医師にとっては診断の材料になります。

説明しようとすると涙が出て言葉にならない。何がつらいのか自分でも分からない。そのままの状態でお越しください。こちらから順に質問しながら、一緒に整理していきます。

診断の手がかりになりやすいのは、次のような点です。思い出せる範囲の走り書きで十分です。

  • いつ頃から調子が変わったか(「連休明けくらい」程度で構いません)
  • どんなときにつらいか(出勤前、会議の前、特定の人と話すときなど)
  • 睡眠と食欲の変化
  • 職場や生活で起きた出来事(異動、業務量の変化、人間関係、家庭の事情など)
  • これまでに受診したことがあれば、その経過と処方されていた薬

診断名を告げられること自体に不安がある方は、その気持ちも診察でお伝えください。どう説明するか、会社にどこまで伝えるかについても、一緒に考えます。

よくあるご質問

適応障害かどうかは、どのように診断するのですか?

適応障害の診断は、診察でうかがった内容をもとに医師が総合的に行います。国際的に使われている診断の手引きでは、はっきりしたストレスの原因があること、その発生から間を置かずに症状が現れていることが確認されます(目安となる期間は手引きによって異なります)。あわせて、著しい苦痛があるか生活・仕事への支障が大きいこと、うつ病など他の病気によるものではないことも確かめます。適応障害を単独で確定できる血液検査や画像検査はありませんが、必要に応じて身体の病気などを除外するための検査を行うことがあります。いつ何が起きて今どう困っているかをお話しいただくことが、そのまま診断の材料になります。

インターネットのセルフチェックで当てはまりました。適応障害ということですか?

セルフチェックの結果がそのまま診断になることはありません。項目の数を数えて決まるものではなく、症状の重さ、経過、生活への影響、他の病気の可能性を照らし合わせて医師が判断します。受診を考えるきっかけとしては役に立ちますので、気になった時点でご相談ください。当てはまらなかった場合でも、困っている状態が続いているなら受診していただいて構いません。

適応障害を「甘え」「気の持ちよう」だと言われました。医学的にはどう説明されますか?

適応障害は甘えではありません。置かれた状況とその人の状態との相互作用で起こります。気合や性格の強さだけで説明することはできません。適応障害を単独で確定できる検査がないこと、原因から離れているあいだは症状がやわらぐことがあることから、周囲には分かりにくい面があります。医師が診察のうえで療養や配慮が必要と判断した場合には、その医学的な見解を診断書という形で職場に伝えることもできます。

適応障害の診断がつかなかった場合、受診した意味はないのでしょうか?

そのようなことはありません。診察では、今の状態がどのあたりにあるのか、環境のどこを調整できるのかを整理します。診断名は、診察で得られた情報と診断基準にもとづいて医師が判断するもので、制度を利用するかどうかで診断の有無が決まるわけではありません。診断に至らない場合でも、生活の組み立て方を一緒に考えたり、経過を見ていく形をとったりできます。

神戸・三宮で、適応障害かどうか相談できますか?

三宮駅前こころのクリニック(〒651-0095 兵庫県神戸市中央区旭通4丁目1-4 シティタワープラザ 3階)は、JR三ノ宮駅から徒歩4分の精神科・心療内科です。適応障害を含め、仕事や環境の変化による不調のご相談をいただけます。診療時間は9:30〜13:30/15:00〜19:00で、土日祝も診療しています。WEB予約は24時間受け付けており、お電話は078-891-8558です。なお、提携駐車場はございませんので、お車の場合は近隣の有料駐車場をご利用ください。

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「甘えかもしれない」と思いながら出勤を続けているだけでは、状況が動きにくいこともあります。診察でお話しいただければ、今の状態がどこにあるのか、環境をどう動かせるのかを一緒に整理できます。

診断名がつくかどうかにかかわらず、困っている状態を言葉にしにいく場所として使っていただいて構いません。「これくらいで受診していいのだろうか」と迷っている段階のご相談も歓迎しています。

この記事の執筆・監修
近藤 大貴(三宮駅前こころのクリニック 副院長)

近藤 大貴執筆|三宮駅前こころのクリニック 副院長/精神保健指定医

藤田医科大学卒業。名古屋市立大学病院こころの医療センター、豊川市民病院、稲美しんわ病院(副院長)にて精神科診療に従事。適応障害・うつ病など、働く方のメンタルヘルス診療に力を入れている。

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宇治田 直也(三宮駅前こころのクリニック 院長)

宇治田 直也監修|三宮駅前こころのクリニック 院長/精神保健指定医

札幌医科大学卒業。明石こころのホスピタルで精神科診療に従事し、戸田病院では医局長・診療部長を歴任。公認心理師・日本医師会認定産業医。

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