
「この職場を離れれば楽になるのだろうか」。適応障害と診断されたあと、そんな考えが浮かぶことがあります。異動の希望を出すか、転職するか、あるいは辞めてしまうか。どれも生活が変わる決断で、決めかねたまま日が過ぎていくこともあります。
適応障害は、はっきりしたストレスの原因と結びついて起きている状態です。その原因から距離が取れると症状が軽くなることがあり、だからこそ「環境を変える」という発想が出てきます。ただ、環境の変え方は転職だけではありませんし、変えれば必ず良くなるとも限りません。
この記事の要点
- 適応障害は原因となっている状況と結びついて症状が出ているため、その状況から距離を取ると症状が軽くなることがあります。異動や転職が選択肢に上がるのはこのためです。
- 一方で、環境を変えれば必ず良くなるとは限りません。原因から離れても症状が続くこと自体でうつ病と判断できるわけではなく、ストレスの原因が残っていないか、新しい負荷が加わっていないかを含めて見立てを確認します。
- 環境の変え方は「今の職場で我慢するか、辞めるか」の二択ではありません。業務量の見直し、勤務時間の調整、配置転換、休職まで、手前にいくつもの段階があります。
- 職場での調整を進めるには、療養のうえで配慮してほしい点を診断書に記載して勤務先へ伝える方法があります。実際に配置や業務をどう変えるかを決めるのは勤務先です。
- 退職や転職のような大きな決断は、体調が戻ってから改めて考える進め方もあります。ただし、ハラスメントを受けている場合や安全にかかわる問題があるときは、療養とは切り離して早めの対応が必要です。
- 環境を変えても楽にならないときは、残っている負荷や見立てを見直します。ご自身の努力が足りなかったからだと考える必要はありません。
三宮駅前こころのクリニック(神戸市中央区旭通・JR三ノ宮駅徒歩4分)は、神戸・三宮で適応障害の休職や職場調整のご相談をいただける精神科・心療内科です。診察を担当するのは院長・宇治田直也と副院長・近藤大貴(いずれも精神保健指定医)で、土日祝も診療しています。
適応障害という病気そのものの説明(症状・原因・治療)は適応障害のページに、休職や復職の手続きの流れは休職・復職の進め方のページにまとめてあります。この記事では、働く場所や働き方をどう変えるかという部分に絞ってお話しします。
職場から離れると軽くなることがあるのはなぜか
適応障害では、仕事や人間関係といったはっきりしたきっかけがあり、そこから心身の不調が続いています。原因と症状が結びついているぶん、その原因から距離が取れると、眠れるようになったり、気持ちの重さが薄らいだりすることがあります。ストレスの原因から距離を取ったあとに症状がやわらぐことはありますが、変化の現れ方や時期には個人差があります。
異動や転職が選択肢として上がってくるのは、この性質があるからです。負荷の中心が職場にあるなら、そこを変えることは療養の一部になりえます。原因から離れると症状がやわらぐことがありますが、経過には個人差があり、離れれば必ず回復するというものではありません。
「環境を変えれば治る」と言い切れない理由
ただ、環境を変えたあとに同じような不調が出てくることもあります。新しい環境に慣れるまでの負担が重いこともあれば、転職や引っ越しの手続き自体に力が要ることもあります。もともとの症状や診断を、あらためて確認し直す必要が出てくる場合もあります。
うつ病でも発症のきっかけがはっきりしていることがあり、原因から離れたときの変化だけで適応障害とうつ病を分けることはできません。症状の内容や強さ、続いている期間、生活全体への広がり、これまでの経過を診察で確認して判断します。この見分けについては適応障害とうつ病の違いの記事にまとめました。
環境の変え方は「我慢するか、辞めるか」ではありません
環境調整とは、適応障害の療養において、ストレスの原因になっている状況を回復しやすい形へ整えることを指します。適応障害の治療では、環境調整と精神療法が中心に置かれます(治療全体の組み立ては適応障害のページをご覧ください)。転職は、仕事の内容だけでなく収入や生活にも影響する選択です。ほかにも選べる手立てがあり、次のようなものが挙げられます。
- 業務量や締め切り、担当している仕事の一部を見直す
- 残業を控える、勤務時間を短くする、在宅勤務を使う
- 負担の大きい業務や、特定の相手との接点を減らす
- 部署の異動、配置転換
- 休職して、いったん職場から離れる
- 退職、転職
これらは選択肢の例で、順番が決まっているわけではありません。健康や安全に危険がある場合、ハラスメントを受けている場合、勤務先に調整の余地がない場合は、職場のなかでの調整を先に試す必要はありません。すぐに離職しなければならない状況でなければ、職場で受けられる配慮と、休職や退職それぞれの影響を確かめたうえで決めるという進め方もあります。
職場のなかでできる調整と、診断書の使い方
誰に伝えるか
勤務先で調整を進めるには、体調について何らかの形で伝える必要があります。窓口になるのは上司、人事、産業医のいずれかになることが多く、産業医のいる職場では面談がその役割を担うことがあります。誰にどこまで話すのが現実的かは、職場の体制によって変わります。
診断書に書けること、決めるのは勤務先であること
診察のなかで、療養のうえで配慮していただきたい点を整理し、必要に応じて診断書に記載することを検討します。残業を控えること、業務量を減らすことなどが、その内容にあたります。
診断書には、就業のうえで必要と考える配慮について医師の意見を書くことはできますが、異動や配置転換を命じる書類ではありません。勤務先は、診断書の内容、必要に応じて産業医などの意見、ご本人との話し合い、職場の実情を踏まえて最終的に判断します。人員の状況によって希望どおりにならないこともあります。ただし、勤務先が医学的な意見を無視してよいという意味ではなく、安全に配慮する義務を踏まえた検討が求められる場合もあります。
病名の記載についても、診察でご相談ください。書式によっては記載する欄が決まっていることもあります。
当院では、医師が療養の必要があると判断した場合、即日発行も可能です(診察内容や書式によっては後日のお渡しになります)。文書料は当院書式4,900円、会社などの指定書式6,600円です(いずれも税込)。適応障害の診断書について詳しくは適応障害の診断書の記事に、料金は料金のご案内にまとめています。
異動・配置転換を考えるとき
適応障害で異動や配置転換が助けになりやすいのは、負荷のもとがその部署の業務内容や人間関係にはっきり結びついているときです。逆に、長時間労働が全社的に常態化しているような場合は、部署が変わっても状況が動きにくいことがあります。今つらいものが何なのかを言葉にしておくと、異動が答えになるかどうかを見立てやすくなります。
時間がかかることを見込んでおく
異動は人事の都合と時期に左右されます。希望を出してすぐに動くとは限らず、次の期まで待つこともあります。待っている間に消耗が進むようなら、その期間をどう過ごすかは別に考える必要があります。休職を挟むという選択肢もここに入ります。休職中の過ごし方は適応障害の休職中の過ごし方の記事にまとめました。
異動先にも、慣れるまでの負荷がある
新しい部署では、仕事を覚え直すところから始まります。体調が戻りきらないうちに環境が大きく変わると、負担が重なることもあります。復職と同時に異動する場合の進め方については、適応障害の復職判断の記事もあわせてご覧ください。
転職・退職を考えるとき
決める時期をずらすという考え方
気持ちが沈んでいる時期は、選択肢を狭く捉えたり、先のことを否定的に見積もったりすることがあります。そのなかで出した結論が、体調が戻ってから見ると違って見えることもあります。退職を急いで決めず、体調が落ち着いてから考え直すという進め方もあります。ただし、判断の保留を一律にお勧めするものではありません。
暴力や脅迫など身の安全にかかわる状況では、その場から離れることを優先してください。ハラスメントについては、直属の上司以外の社内窓口のほか、各都道府県の労働局や労働基準監督署などに置かれている総合労働相談コーナーに相談できます。退職届や合意書に署名する前に、労働相談や法律相談を利用する方法もあります。
退職を決める前に確かめておきたいこと
私傷病による休職は、法律ですべての勤務先に義務づけられた制度ではありません。制度の有無、対象、期間、休職中の賃金、社会保険料の扱い、期間が満了したときの扱いは、勤務先の就業規則や労働契約でご確認ください。休職が認められれば雇用関係を保ったまま療養できますが、無給になる場合や、期間が満了した時点で退職の扱いになると定められている場合もあります。
収入の支えについても、退職の前に確認しておくと見え方が変わります。傷病手当金は、勤め先の健康保険にご本人が被保険者として加入していて、療養のため仕事に就けない状態が続いているときに、要件を満たせば受けられます。退職後も引き続き受けられる場合がありますが、原則として次の要件を満たす必要があります。
- 退職日までに、勤め先の健康保険の被保険者期間が続けて1年以上あること
- 退職の時点で、傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること
- 退職後も、同じ病気で仕事に就けない状態が続いていること
退職日に出勤した場合は、原則としてこの継続給付を受けられません。支給の可否を判断するのは加入先の健康保険(保険者)で、医療機関ではありません。制度の詳しい流れは適応障害と傷病手当金の記事にまとめました。
雇用保険の基本手当(失業給付)は、働く意思と能力があり、求職活動をしているのに就職できない状態であることが前提です。療養を続けていても働ける状態であれば、対象になることがあります。一方、病気やけがで引き続き30日以上働けないときは、受け取れる期間を延ばす手続きがあります。給付日数が増えるわけではなく、原則1年の受給期間に働けなかった日数を加え、最長で離職日の翌日から4年以内まで延ばすものです。傷病手当金を受けていて働けない状態であれば、基本手当の「働く能力がある」という要件を満たさないため、まず受給期間の延長についてハローワークにご相談ください。
転職活動そのものにも力が要る
転職活動には、応募書類の作成や面接などの負担が伴います。体調が整わない時期には、その一つひとつが重く感じられることもあります。動き出す時期や活動の量は、体調と生活のうえでの必要性を見ながら決めていきます。時期の見当がつかないときも、診察でご相談いただけます。
環境を変えても楽にならないとき
異動や転職のあと、しばらくして同じような不調が出てくることがあります。改善したかどうかだけで原因や診断を決めず、診察では次の点を確認していきます。
- もとのストレスの原因が実際には解消していない、または職場以外の負荷が続いている
- 新しい業務や人間関係に慣れること自体が、新たな負荷になっている
- 以前の出来事に関連する不安や緊張などが続いている
- 睡眠、身体の病気、飲酒、服用中のお薬が症状に影響している
- うつ病などほかの病気や、併存する状態を含めて、診断や治療方針を見直す必要がある
環境が変わっても改善しないことを、ご自身の努力が足りなかったからだと受け取る必要はありません。適応障害が「甘え」ではない理由については適応障害は甘えではないという記事でも触れています。診察では、どこに負荷が残っているのかを一緒に確認していきます。見立ての見直しについては適応障害とうつ病の違いの記事もご覧ください。
よくあるご質問
適応障害は、転職すれば治りますか?
適応障害は原因となっている状況と結びついて症状が出ているため、その状況から離れると症状が軽くなることがあります。転職が助けになる場合があるのはこのためです。ただし経過には個人差があり、新しい職場にも別の負荷があるため、環境を変えれば必ず回復するというものではありません。原因から離れても症状が続くことだけで、うつ病と判断できるわけではありません。ストレスの原因が残っていないか、新しい負荷が加わっていないか、回復に時間がかかっている経過ではないかを確かめたうえで、症状の内容や重さ、続いている期間、生活全体への影響から見立てを見直します。転職に踏み切るかどうかは、体調と職場の状況の両方を見ながら、診察で一緒に整理していきます。
異動を希望したいのですが、診断書に書いてもらえますか?
適応障害で異動や配置転換をご希望の場合、当院では診察のなかで療養のうえで配慮していただきたい点を整理し、必要に応じて診断書に記載することを検討します。ただし、診断書は就業のうえでの配慮について医師の意見を書くもので、異動を命じる書類ではありません。勤務先は、診断書の内容、産業医などの意見、ご本人との話し合い、職場の実情を踏まえて最終的に判断します。書式が指定されている場合は、その用紙をお持ちください。当院では、医師が療養の必要があると判断した場合、即日発行も可能です(診察内容や書式によっては後日のお渡しになります)。
休職と退職、どちらを選ぶべきか分かりません。
適応障害で休職と退職のどちらにするか迷っているときは、退職を先に決めてしまう前に、籍を残したまま療養できる休職という選択肢がないかを確かめることをおすすめします。私傷病による休職は、法律ですべての勤務先に義務づけられた制度ではありません。制度の有無や期間、休職中の賃金、社会保険料、期間が満了したときの扱いを、就業規則や労働契約でご確認ください。無給になる場合や、期間の満了時に退職の扱いになると定められている場合もあります。気持ちが沈んでいる時期の決断は、体調が戻ってから見ると違って見えることもあります。ただし、身の安全にかかわる状況やハラスメントを受けている場合は、その場にとどまることを前提にせず、早めの対応をご検討ください。迷っている段階のままお話しいただいて構いません。
職場に病名を知らせたくありません。
病名や症状などの健康情報の多くは、慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」にあたり、勤務先にはその取り扱いのルールを定めることが求められています。産業医などから人事や上司へ伝える場合も、就業上の措置に必要な内容へ整理したうえで伝えるのが原則です。ただし、ご本人の同意がなければ一切共有されない、と一律には言えません。診断書を提出する前に、勤務先の健康情報の取扱規程と、誰にどこまで共有されるのかをご確認ください。診断書に記載する内容は書式や提出先によって決まっている部分もありますが、ご希望は診察でお聞かせください。
環境を変えたのに、また同じような不調が出てきました。
環境を変えたあとに同じような不調が出てくる理由は、ひとつとは限りません。もとのストレスの原因が実際には解消していない場合や、職場以外の負荷が続いている場合があります。新しい業務や人間関係に慣れること自体が負荷になっていることもありますし、以前の出来事に関連する不安や緊張が続いていることもあります。睡眠や身体の病気、飲酒、服用中のお薬が影響している場合も考えられます。そのうえで、うつ病などほかの病気や併存する状態を含めて、診断や治療方針を見直します。ご自身の努力が足りなかったからだと考える必要はありません。経過を診察で確認しながら、次にどうするかを一緒に考えていきます。
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三宮駅前こころのクリニックは、JR三ノ宮駅から徒歩4分の精神科・心療内科です(神戸市中央区旭通4丁目1-4 シティタワープラザ3階)。土日祝も診療しており、平日に休みを取りにくい方もご相談いただけます。
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- 厚生労働省「確かめよう労働条件(退職、解雇、雇止めなど)」
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(主治医が就業上の意見等を提示するための様式例を含む)
- 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
- 厚生労働省(ハローワーク)「基本手当について」(受給期間の延長を含む)
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